#7 ゴードナイト・ゴーズバイ −イコール=part−




溢れる光。空を映す境面が、硝子の割れるような音と共に砕け散っていく。
管理者ストーリーテラーという支えを失い、この空間もまた崩壊の時を迎えていた。

雪のように降り注ぐ破片はこぼれる光を撥ねて黄金きんにきらめく。
大地なき地面に降り積もっていく欠片。幻想めいた光景を、カタナはキィの体を抱いたままどこか遠くを見るように眺めていた。

「…………きれい」

わけもなく、胸が詰まる。
消えていくセカイを満たす光。あたたかさなどない、それは、ただただ美しかった夢の終わり。

……いつかどこかで見た、黄金の朝焼けにも似た────……


「───……ここまでだな」

その時、不意に背後から声が聞こえた。
微かに息を呑むキィにつられるように後ろを振り向く。鴉を思わせる、黒いマントを纏った青年───クロバード=ルル=クロデイズが、逆巡する柱時計を背に立っていた。
かつて一度だけ見えたNo.001のナイツ。……その正体を、カタナはなんとなく気付いていた。
ハッキングによるものとはいえ、一度はDGシステムに触れたためか。あるいは────思い出せなくとも、どこかで憶えていたのか。

「そっか。……迎えに来てくれたんだ」

懐かしむような眼差しの意味を察したのか、クロバードは小さく頷きキィを見る。不安げに眉を曇らせる少女に、彼は、ひどく優しい表情を浮かべて。

「───さぁ、もう帰ろうキィ、元の時間セカイへ。お前はこんな下らない仕事に付き合う必要はないし、ひとりで消えることもないよ」

そう言って、そっと彼女に手を差し延べた。
「え、……ぁ……」
一瞬の困惑の後、その意図を理解してなお怯えたように俯くキィ。
青年は数歩分の距離を保ったまま、急かすでもなくただ静かに少女から手を取るのを待っている。だからその背を押すのは、彼ではなく自分自身・・・・の役目だった。
「ほら、何を迷う必要があるかな」
とん、と細い肩を押す。
驚いたようにカタナを振り返るキィに、彼女はフゥ、と大きく嘆息をついた。
「君が行かないと、困るのは私なんだけどなぁ。まぁ、わたしの自分コンプレックスは筋金入りだから仕方ないって言えば仕方ないけどね」
言って、ぴんっ、と、少女の額を指で弾く。
「っ……!?」
「───けど、すぐには無理だけど、きっと変えられるよ。
 次に目が覚めたら、今までより少しだけ世界は優しくなってる。私が保証するんだから間違いないでしょ?」
そして、いつか憧れた、笑顔のカタチをなぞるように。
ぴっ、と人差し指を立て、自信たっぷりの笑みを浮かべるカタナを、キィは泣きそうな瞳で見つめたあと────躊躇いがちに、小さくこくんと頷いた。
……カタナ=シラバノの『笑顔』の理由。どうしてわたしが嬉しくもないのに「笑う」ようになったのか。その気持ちを思い出せたのなら、きっともう大丈夫だろう。
よし、と頷きを返して、カタナは今度はクロバードのほうへと視線を向ける。

……柄にもなく緊張している自分を、カタナは自覚した。それでもまっすぐに彼を見つめる。
DGシステムが機能を停止しつつあるためか、キィ同様、彼もまた徐々にその輪郭を失いつつあった。削り、光へと還りながら、古い記憶にあるカタチへ遡っていく。

胸をつく愛おしさ。
その、万感の想いを込めて。


「───それじゃあよろしく。今日から私たちは、同じ夢を追いかけるパートナーだね」


咲き誇るような笑顔で、そんな、はじまりの約束コトバを口にした。

「────────」
……盟約は永遠に。あらゆる記憶が喪われたとしても、日々がどれほど色褪せても。

この輝きを枕に、共に、黄金の夢を見よう。

「ああ───こちらこそ」
果てず尽きぬ誓いを、確かに胸に刻み込んで彼は頷く。そうしてもう一度、キィへと手を差し出して、

「行こう。───君にはこれから、ぼくの冒険のパートナーを務めてもらわなくちゃいけないからね」

そう言って笑う彼の姿は、まるで、初めて会ったあの頃の少年のようだった。

逆しまに時計が回る。
金色の光の粒が、瞬きながら降りしきる。

少女はおそるおそる、小さな手を彼のそれへと重ねた。消えつつあるそのてのひらを、彼は強く握り返す。彼女は一瞬だけ肩を震わせたものの、すぐに、彼へあわく微笑みを返した。

「────うん。クロくん」

交わされる約束は、しょせん今だけのもの。ここで得た想いも答えも、正しい時間に戻れば忘れてしまうであろう仮初めのユメだ。
────けれど。
たとえ形を失っても、この誓いは、確かにあった真実なのだ。
それならどこかに、残るものもあるだろう。少年と少女は手を繋いだまま、足元からその存在を透かしていく。

咲き乱れる黄金のカケラ。
彼らはカタナを見ることもなく、光に包まれて消えていく。

……別れの言葉は必要ない。
未来みちは確かに、ここに繋がっているのだから。



───ひときわ大きな音を立てて、最後の残滓が砕け散る。

「───さて。それじゃあこっちも幕引きにしようか」

ストーリーテラー、そしてNo.001のナイツの“帰還”によって、もはや稼動状態のDGシステムを繋ぎ止めているのはただ一人───即ちキィ=ヒストウォーリーとその袂を同じくする、カタナ=シラバノに他ならない。火花を放ちながらなお、この空間の本体たるDGシステム制御用端末は課せられたプログラムを全うすべく新たな『管理者よりしろ』を捜していた。
「────────」
つまりはカタナ=シラバノを、DGシステムへ取り込むこと。
彼女は軽く呼吸を整え、服の裾から携帯型ビームサーベルを取り出す。

……いずれにせよ、これをこのままにはしておけない。DG再構成計画の根幹となるプログラムを破棄しなければ、システムはシナリオを完了するまで動き続けるだろう。
この制御端末はシステム全体を司るコア・プログラムを組み込まれている。DGシステムの本体コアや実行端末には強力な自己修復機能が備わっているが、これを破壊すればそのバックアップごと消去できるはずだ。そうなれば、如何に機械そのものを直したところでシステムは働かない。
ブゥン、という微かな音と共に、握った柄から光の刃が具現する。

「……まぁ、そう簡単に行くとは思えないんだけどね」

軽口まじりに言った瞬間、ザザザ、と、あたまの中に砂嵐が走った。
DGシステムからの侵食。間際と迫った『黄金の夜ドリムゴード』の再生のため、向こうも手段は選んでいられないようだ。強引に、こちらの脳を侵してくる。
「……ん。でも、大丈夫」
それでも不安はない。この程度の痛み、彼らが受けてくれた傷に比べればなんていうこともない。
システムがカタナ=シラバノを書き換えるよりも、この腕を振り下ろす方がきっと早い。サーベルの柄を強く握り締め、制御端末へと足を踏み出す。

涼やかに鳴り響く星の音。きらめく破片も、もうあと僅かだ。

……はやく、彼らに会いたい。君にはまだ一つだけ、伝えてないことがあるから。
きっと驚くだろうパートナーの顔を思い浮かべ、カタナは思わず小さく笑った。……それさえも、すぐに白く途切れてしまったけれど。

────さぁ、帰ろう。
わたしの居場所は、彼らの隣にあるのだから。


* * *


────パチン、と剣が鞘に収められる。
荒れ果てた『エイデン』で繰り広げられた、人知れぬ死闘はここに決着した。

「……これで、ようやくあなたともサヨナラ……ですね」

サングラスをかけ直し、クロラットは大きく息を吐く。そして、痛む身体を引きずるように『エイデン』の出口へ向かい始めた。───ジャッジの横を、こともなげに通り過ぎて。
「…………!? ちょ、ちょっと待ておい!! とどめはどうしたとどめは!?
 おかしいだろそれは、まさか君はぼくを生かしたままにするつもりじゃないだろうな!?」
いまだ『支配者の右腕』の効力が切れていないのか、その場に縫い止められたままジャッジは背中越しにクロラットに叫ぶ。
「君にとってぼくは憎き敵役だろう! 君からすべてを奪った、生かしておく理由などどこにもないはずだ!
 君はあの時の恨みを晴らすために、このぼくに復讐をするために───君は、帰って来て・・・・・くれたんじ・・・・・ゃなかったのか・・・・・・・!!?」
……苛立ちに満ちた、ひどくちぐはぐな言葉。
足を止め、クロラットはどこか遠くを見るように、古い記憶を思い浮かべた。

「…………復讐、ねぇ」

────もう、ずいぶんと昔の話である。
彼には家族と呼べる人もいたし、友と呼べる誰かもいた。

だがそれは結局よくわからない理由で亡くなってしまったし、よくわからない理由で失くしてしまった。
幸いだったのは、彼がまだ子供であったこと。少年は聡明であったが、未熟であるがゆえの前向きさも持っていた。

失われてしまったのは、きっと、それに見合う輝きを得るためだと。

少年はそんなことを本気で信じ、だが幼さゆえに、その「輝き」を何に見出せばいいのか理解らない。
だからすべての秘宝の中心と言われる『黄金の夜ドリムゴード』に興味を持った。怪盗名家と言われる血筋に生まれたせいもあるだろう、そんなにすごいタカラモノなら、きっとそれだけの価値があると思ったのだ。

そうして彼は友を得た。
ともすれば親子ほどにも年の離れた、共に『黄金の夜ドリムゴード』を追う目的を持つ仲間。───市長、ジャッジ=アンダクルスター。
彼は傲慢で唯我独尊で、そして自己に対する絶対の自信を持った強者だった。支配階級ゆえの冷酷さも見られたが、同時に上に立つ者として面倒見の良さも兼ね備えており、少年はそんな彼を信頼していた。
────告白すれば。
彼の強さに、憧れもしていたのである。

しかしいつしか歯車はズレ始め、少年の信頼は、結局は市長の裏切りによって幕を閉じる。
多くのものを奪われて、多くの想いをこぼして────少年は、求めた輝きさえ見失って。

……それでも。
たとえどんな結末を迎えたにしても、どんなに変質したとしても───あの日々は確かにそこにあって、共に過ごした時間は、「楽しい」と感じられるものだった。
それだけは、まぎれもない真実だったのではなかったか────

『市長!! 次はあっちの遺跡に探検しに行ってみよーぜ!!』
『つきあいきれんわ、今日は疲れたからもうやめじゃ!』

……永遠ではなかった。ただそれだけの話。

そう、いつか自分でも言ってたじゃないか。出会った以上は別れは来る、ならせめて夢が醒めても忘れないように、この一瞬を大切にすればいいと。
結果は良いものではなかったけれど、それでも「楽しかった」と言えるのなら、きっとそこには価値があった。磨耗し、意味を失くしてしまったとしても、決して顔を伏せるようなものではなかったはずだ。

そうでなければ────ながい回り道の末、ようやく手にした輝きまで、否定してしまうことになる。

「……………………」
目を細め、クロラットは佇むDGシステムの端末を見上げた。出来損ないの天使みたいなそのカタチは、廃墟じみた『エイデン』と眩むような照明の中で、或いは本当に天使の像にも見えたのかもしれない。
足を止めて振り返り、クロラットは軽く肩をすくめて、


「そーんなおっかないことする度胸、このぼくにあるわけないでしょう?」


────あっけらかんと。

ほんとうに何でもないことみたいに、ジャッジ=アンダクルスターを赦宥した。

「──────!!?」

朽ち果てた神殿を思わせる厳かな静寂。長くこの身を縛り続けた妄執は、今はもうどこにもない。
覚悟も決意も必要なく、ただ当然のことのように、クロラット=ジオ=クロックスは錆びた不実かつての自分を手放した。

この上のない別れの言葉。
そして、あってはならない免罪の甘言。

そこにどんな想いが込められていたのか、青年は───あの日の少年のような、晴々とした笑顔を浮かべて。

「───それでは! そういうことで……」

そんなどうでもいい言葉だけを残して、ジャッジ=アンダクルスターに背を向けた。
走り去る背中が『エイデン』の出口へと消えていく。呆然としたままそれを見送り、やがて暗い通路の中にマント姿が消えていった頃────どさりと、ジャッジはその場に背中から倒れ込んだ。

「ク───は、はは」

自然と口から笑いがこぼれる。たまらなく、可笑しい。
だってこんなもの、もはや喜劇ですらない。とんだ茶番、笑い話だ。ならもう笑うしかないというもの。
「ハ───ッハッハッハッハ……!!!! ギャハハハハハハハハハハハハ!!!!」
こんなにも遠回りをして、あんなにも多くのものを犠牲にして、結局何一つ為し得なかった。
彼が、ではない。きっと誰も彼もが。
分不相応な輝きに手を出すから、その身を焼かれてしまうのだろう。意味を見失ったまま、何も残せずに消えていく。まるで空を駆け抜けていく流れ星のように。


それはなんて無意味で。

そして、なんてまばゆい。


四肢を投げ出し、ジャッジは『エイデン』の天井を仰ぐ。……こんな状況だと言うのに、照明だけは生きているのも不思議な話だった。 手を伸ばせば掻き抱けそうな光を見上げ、彼はひとり呟く。

「ハハ────、……は。
 ……なるほどな。意味などないからこそ、眩しいものもある」


* * *


崩れ落ちたビルの窓に、醒めた月が映り込む。
にぎやかな舞踏会は今宵限り。間もなく日付は変わり、灰かぶり姫の魔法が解ける。
……終演の時は近い。此れより黄金の夜へ至り、物語に幕を下ろそう。


「…………これは、また」

『エイデン』を出たクロラットは、目の前の光景に唖然として呟いた。
見る影もなく破壊された街並み、蠢く巨大なDGシステムの端末。あちこちで閃く光は、端末と交戦中の市長軍によるものだろうか。ある程度のことは予想していたが、これはその想像を軽く超えている。
「……カタナの方はどうなったのかな」
DGシステムが未だ稼動状態にあるということは、少なくとも再構成プログラムの破棄までは出来ていないということか。彼女がどんな状況にあるのかは想像の域を出ないが、捜し出すのは早ければ早い方がいいだろう。
「あ゙ーっ、それにしても体中が痛い!! 斬ったり撃ったりの殺し合いなんかもうやめだー!」
ばかみたいに喚く痛覚ととにかく進み難い地面、おまけに暴れ回る端末に八つ当たりするように叫ぶ。この日のために練った復讐劇まで棒に振って、骨折り損の草臥れ儲けもいいところだ。君にはちゃんと、この責任を取ってもらわないと。
「……まぁ、とりあえずは」
胸元でゆらゆらと揺れる、ペンダントを返す方が先か。
目指す先はシラバノの本社ビル。そこでまずグレイナインと合流し、それからカタナを捜そう。あとは『黄金の夜ドリムゴード』を拝みさえすれば────それで、大団円フィナーレだ。


頭上には皓月。
限りない雪に縁取られたおしまいの凍夜には、




「────こんばんわ、クロラくん」


この光景とはあまりにもかけ離れた、けれど同時にこの上なく相応しい仮面の聖女が立っていた。

「……っ!?」
ぎょっとして目を見開くクロラットに、美貌の女性───エト=アイルはにこやかに微笑んで会釈する。こんな状況だと言うのに、その様は実に優雅なものだ。
「え、エトさん……!? こんなところで何を……」
「お祭に来ていたんですけど……大変なことになってしまいましたね」
「は、はぁ……」
そんな呑気なことを言っている事態でもないような気がするが。
思わず脱力しかけるクロラット。とは言え無論彼女のことだ、何か理由があってここにいるのだろうことは容易に考えられた。
「カタナさんをお捜しなんでしょう?」
「!?」
「ふふ、大丈夫ですよ。カタナさんならきっと無事です」
口許に手を当てて、おかしそうにエトは微笑う。そして裾から携帯電話を取り出すと、何やら手早く操作した。どうやら誰かにメールを送っているらしい。
「でも、早く行ってあげてくださいね。クロラくんの姿を見ないとカタナさんも安心できないでしょうから」
「……カタナがどこにいるか、ご存知なんですか?」
どうにもバツが悪そうに訊ねるクロラットに、彼女はくすっと微笑んで、
「いいえ? でもクロラくんならすぐ見つけられるはずですから」
その言葉に、彼はますます居心地の悪そうな顔をする。それが何に対する照れ隠しなのかは、まぁ、不問ということにしておこう。
……やっぱり、彼はけっきょく彼のままだ。それは今ここにはいない、彼のパートナーも同じだろう。

得たものも失ったものもない。
何かが劇的に変わったわけでもない。

最初からすべてがあった。つまりこれは、ただそれだけの話──────

「クロックス、無事かー!?」
「ユニックス?」
唐突に、彼らのいる場所に影が差す。上から降ってきた声に視線を上げれば、機動獣騎フェルコーンの機影がそこにあった。
転生鳥と一角霊馬を模した獣騎は上空で大きく旋回すると、砂埃を吹き散らし彼らの横に降下する。
「呼ばれて来てみれば……っておいおい、お前重症だぞ!?」
獣騎の背から顔を覗かせたユニックスが、一見して全身傷だらけのクロラットを見て顔を引き攣らせた。
「えーと、まぁいろいろありまして。ユニ将軍こそどうしてここに?」
「俺はお前がここにいるっていうメールを……って、んなことよりお前の治療をしねーとまずいだろ!」
「いえ、申し訳ありませんがそれは少し待ってもらえませんか、ユニックス将軍」
彼らの会話を遮って、ユニックスに言葉をかけたのはエトだった。その声色はあくまで柔和なものであったが、途端、ユニックスは些か身を強ばらせながらも反論した。
「けどな……」
「まだすべきことがありますから。そのためにあなたを呼んだんですよ」
なおも言い募ろうとして、しかし口を噤むユニックス。満足そうに微笑むエトに、クロラットは納得した。なるほど、先ほど彼女がメールを送っていた相手はユニックスだったのか。
「エトさん、ユニックスとお知り合いだったんですか?」
だとすれば、やはりエト=アイルが────だったということか。
確認のため訊ねるクロラットに、彼女はにっこりと微笑んで、
「少し、ですけれど。
 ……では、お願いしますねユニックス将軍。クロラくんを『彼女』のところへ送り届けてください」
その言葉で、ユニックスはエトの意図を察したらしい。そういうことか、と口の中で呟いて、わしゃわしゃと頭を掻く。
「しっかし、俺じゃどこ行きゃいいのかわかんねーぞ」
「そんなことはありませんよ。ユニックス将軍の今夜の行動とその範囲を考えれば、きっと見ている・・・・はずですから」
眉を顰める彼に意味ありげな笑みを浮かべて、エトは言葉を続ける。
「将軍。今夜『エイデン』を出られてから、何か怪しいものは見ませんでしたか?」
「────あ」
言われてようやく合点がいった。そう言えば確かに、露骨に怪しい柱時計のオブジェを目撃していたのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そういうことです。理解して貰えましたか、ユニックス二位」
頷いて、ユニックスはフェルコーンの背にクロラットを乗せる。
「え、エトさん───!?」
「カタナさんをよろしくお願いしますねクロラくん。ユニックス将軍も、クロラくんを頼みます」
了解、という答えと共に、ユニックス=F=オディセウスの駆る機動獣騎が舞い上がる。囚われのお姫さまを迎えに行く「王子さま」の白馬としては、少しばかり格好はつかないけれど。

……それもまた彼等らしいか、と、エトは思わず小さく笑った。

きっとそんな彼だからこそ、彼女にとっては誰より素敵なヒーローで。
きっとそんな彼等だからこそ、自分はこんな余計なお節介をしてしまったのだろうから。

余分な感情、不要な感傷。だけどそれだって、悪いものでもないだろう。
フェルコーンの姿が遠くなったころ、彼女はおもむろに服の袖から懐中時計を取り出した。示された時刻は、4月1日エイプリルフール────PM、23時50分。

「お見事です。────あなた方の勝利ですね」

祈るように目を閉じて、エトは再び時計をしまう。
そして瞼を開け、灰と雪を降らせる夜空を見上げ呟いた。

「───さぁ、いよいよ大詰めです。ハッピーエンドは目前ですよ、みなさん」











/"brilliant tales" Episode #7 to be Continued.

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