間奏/ゴードナイト・ランナハイ
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────暗黒シティ十大事件第10位、『ドリムゴード事件』。 宝暦2050年、暗黒シティ最上級階層の一部によって企てられた「DG再構成計画」。その末期において発生した大型機動兵器郡の暴走は、暗黒シティに多大な混乱を巻き起こした。 だが市長軍雷騎四獣王は自らを筆頭に大型機動兵器の殲滅作戦を決行、僅か4騎とは思えぬ三面六臂獅子奮迅を活躍を見せる。これに鼓舞されたか暗黒シティの各英雄たちも次々と蜂起。市長軍本体も間もなく合流し、作戦は瞬く間に完了することになった。 ───そう。東西南北中央の各地で行われた大規模破壊活動は、確かに十大事件として記録されるに足る大事件であった。しかし建築物への被害こそ甚大であるものの、大型機動兵器暴走による死傷者は軽微。 また結局のところこの事件は、僅か一日を待たずして解決することとなる……!!!! * * * 夜の闇を切り裂いて、幾筋もの銀光が閃く。 四獣王第三位トモエ=ミナモトもまた、DGシステム端末との交戦の最中にあった。 「ッ───、ハァ、ハッ────……!」 遍く空より降り積もる雪を薙ぎ散らし、振るわれた刃は鮮やかに端末の胴へと疾る。だが──── 「ぁ、くッ……!」 それでも、機体を停止させるには到らなかった。 端末の口部より放たれた光弾を 撃ち出された弾丸の如き鋭さでもって、跳躍する黒い獣身。しかし端末の口に、再び高熱の光が点る。 空中、それもこの速度ではもはや体勢を変えることは不可能だ。躍り出る少女に死の咆哮が突き刺さる……! ────その直前。 たん、と、軽やかな音を立てて、トモエはケルヴェロードの背を蹴った。 獣身は重力に引かれ地面へと。 トモエの小躯は、DGシステムの巨体を越え高らかに宙へと。 その間を、光の帯が行き過ぎていく。 「───ハァァァァァァァ!!!!!」 そして端末の頭上。裂帛の気合と共に、トモエの振り下ろす刃が一刀のもと白い機体を両断する────!! 小爆発を起こしながら、轟音を上げ倒れていく巨体。 再び愛機の背へと着地したトモエは、しかしがくりとくず折れるように膝を付いた。 「は────ぁ、っ……!」 剣で身体を支え、大きく肩で息をつく。 傷を負ったわけではない。体力が尽きたわけでもない。ただ、心が折れそうだった。 「……キリがない……このままじゃ数に押し切られてしまう……」 一体ずつであれば、敵の戦力はさほど脅威的であるわけではない。巨体から放たれる高出力のビーム砲、建造物を分解・再構成する『唱』は確かに厄介ではあるが、ある程度戦闘に慣れたものなら対処できるレベルだ。しかしさりとて容易に倒せるというわけでもなく、それもこの数────四獣王第三位とは言えいまだ未熟なトモエにとって、それは充分な精神的負荷であった。 「ッ……、弱音を吐くな、顔を上げろ……!」 ────だけど顔を上げても、眼に映るのは街の惨状。 そもそも自分はどうして、 軍神を祖父に持ち武人名家と呼ばれる血筋に連なるとて、その末席に過ぎない彼女には それを棄て、自ら剣を取ったのはどうしてだったか──── 「───だって。わたしは、ミナモトの娘だ」 正しいと思ったから。 力があるなら、それを振るうべき場所に立つことが正しいのだと信じたんだ。 ────けれど、その「正しさ」は。 少女にとっては、最も厳しい道ではなかったのか──── 「……っ……! 迷うことなんてない、これは私が選んだ道だ……!」 誰に強要されたわけでもない、自分自身で決めたこと。ならばどうしてそれを途中で放り出すことなど出来ようか。 若輩と言えど、トモエ=ミナモトは武人である。その誇りが、自らの決意を裏切ることを許しはしない。己が定めた信念ならば最後まで貫き通せと、そう言ったのは誰だったか。 ……頭ではわかっている。 だがそれでも、彼女は齢15の少女なのだ。 戦渦の只中に一人立たされれば、自身の矜持と不安に揺らぎ惑うこともある。 ……せめて、確かなものがあればいいのに。 空を征く翼も踏み締める大地もないから、いつまでたっても境界線で宙ぶらりんのまま。 「───っ……! あぁもう、情けない……!!」 ぱん、と思い切り両頬を叩き、気合を入れ直す。 こんなところでぐずっている場合ではない。自分一人でも、やれるところまではやってみなければ。つまらない泣き言を漏らすのは、その後だって充分だろう。そうでなければあのひとだって、──────…… 唇を引き結び、トモエは浮かんだ思考を振り払う。 大丈夫だ、まだ戦える────そうしてきっ、と顔を上げた瞬間、 「それはどうでもいいんですが。何をサボってるんですか、あなたは」 そんな言葉に、ばっさりと出鼻を挫かれた。 「────は?」 呆れたようなため息にぐるっと後ろへ振り返る。そのトモエを、背後に立っていた人物は小莫迦にするように鼻で笑って、 「ぼさっとしていると危険だと言ったはずですけどね。わかっている、と答えられたのはどなたでしたっけ?」 「わ……私は別にサボってもぼさっともしてませんっ! あなたこそどうしてここにいるんですかっ!」 売り言葉に買い言葉。そんな場合ではないと言うのに、思わずトモエは肩を怒らせて反論する。それに対し、彼はやれやれとでも言いたげに大げさに肩をすくめて、 「いえ、見るに見かねて、と言いますか。この程度の掃討戦でそこまで気負うこともないと思いますけどね」 言って、ちらりと横目で彼女を見た。 「この程度って……そんな楽観的な状況じゃあ……!」 「そうでもありませんよ」 トモエの言葉を遮って、青年は軽く夜空に向かい顎をしゃくる。つられてそちらを見上げた瞬間、ビルの上を 「っ……!? 今の、ユニックス将軍と───」 フェルコーンの滑空によって大きくなびく髪を押さえるトモエに、そういうことです、と短く答える青年。 刻限は間際。長かった 「最前線、ということです。 思い出しましたか、ゴードソーズ独立機動遊撃将雷騎四獣王トモエ=ミナモト三位」 問いかける言葉は少女を戒めるためのもの。彼女にはもとより引き返す道も迷う余地もありはしない。 だが何を以ってして、それを不自由と定められよう。如何なる苦境であろうとも切り拓く剣があればこそ、この道をこの足で征むと決めたのだから。 ゆえにそれは束縛などではなく、少女をトモエ=ミナモトたらしめる確かな足場──── 「────────」 フェルコーンの影を見送って、彼女は僅かに口を噤み。 「……えぇ、そうでしたね。これは防衛戦ではなくて殲滅戦でした、ファンエン将軍」 言って、どこか誇らしげに顔を上げた。 そのトモエに、彼───四獣王第四位ファンエン=コーガルは口許に微かな笑みを浮かべ、 「は、ようやくわかったんですか。まったく悠長なことですね」 「うっ……お、大きなお世話です、と言いたいところですがっ」 トモエが言葉を切った瞬間、轟音を上げて間近のビルが崩れ落ちる。その向こうに姿を現すDGシステム端末が、道を挟んで二体────! 「右は私が。もう片方はファン将軍にお任せします」 「言われるまでもありませんね。……まぁ、貴方と共闘というのも珍しいシチュエーションですが」 即座に臨戦態勢に入るトモエと、変わらず飄々としたファンエン。現市長軍の中では指折りの仲の悪さで知られる彼らである、同時に出撃することは数あれど、およそ共闘と呼べるようなものはほとんど経験がない。 「言われてみれば……あ、なんだか不安になってきました。あなたのことだから、いきなり後ろからバッサリ、なんてこともありそうな」 あなたは信用できませんから、と付け加えるトモエに、しかし彼はいつも通りの口調で、 「貴女と肩を並べて戦うなどということは、そう何度もないでしょうから。───裏切るような真似は、決して」 そんな、彼らしくもない言葉を、どこまでも真摯に口にした。 「────────」 思わず小さく息を呑む彼女に、ファンエンはいたって平然としている。だからそれが彼にとっては当たり前の言葉であったと理解して。 「───よかった。それなら私も、全力で戦えます」 笑みを浮かべ、力強く頷いた。 「────────」 「それでは私から行かせてもらいます。後ろはお願いしましたからね、ファン将軍」 どこか嬉しそうに信頼を向けるトモエに、ファンエンは僅かな間の後、はっきりと頷いた。 「───了解です。任されたからには、せいぜい期待に応えましょう」 背中を預け合うということは、自らの命を預けるということ。 互いにこの信頼は、仮初めのものだと知っている。いずれ道を別つ時が来るのだと理解っていてなお──── これより一幕の間のみ。 彼らは すらりと掲げた刀が、月下の闇に銀のきらめきを残す。 「心源破邪、ミナモト家が嫡子トモエ=ミナモト──────参る」 白いドレスが闇夜に舞う。閃く銀光はさながら清冽なキャンドルライトのようだ。 「───フン。つくづく甘ちゃんだな」 ビルからビルへと飛び移る少女の姿を目で追いながら、ファンエン=コーガルは呆れたように嘆息を吐いた。 ケルヴェロードを駆り剣を振るうトモエの姿は、先ほどまでの迷いや不安など微塵も感じさせない。鮮やかに、力強く疾駆する。 苛烈にして可憐。 それはいまだ未熟で荒削りな才能だが、磨けば 「────────」 ……星とは、つまり届かないものだ。 地上に繋ぎとめられたものは、どこまでいっても天を見上げる他にない。だけどどうして、手に入らないものほどこんなにも目映くきらめくのだろう。 「────ハ」 一笑に伏して、ファンエンは駆けた。立ち塞がる巨大なDGシステムの端末に向かい、自らの武装たる霊棍『ソンゴクウ』を振るう。 縦横無尽に駆け巡る棍はただの一振りであるにも関わらず、まるで何条にも分裂したかのように同時に敵へと滑走する。空気を裂く音が連続し、間を置かず端末を幾重もの衝撃が貫く───! ズゥゥゥゥゥン……! 変幻自在の攻撃に、巨体が後ずさるように揺らいだ。 しかしまだ。生半可な攻撃では、この機体を葬ることは出来ない───! ────LuLuLuLuLuLuLuLu──── DGシステム端末が唱う。 軋みを上げて、ファンエンの周囲が形を変えていく。 「──────!」 強力な再生・再構成能力を有するDGシステムの力の一部。押し寄せる津波の如く、瓦礫であったものがファンエンを取り囲み始める。 舌打ちして、彼はそれを薙ぎ払った。しかし端末の唱はやまない。ファンエンの立つ場所を歪ませ、さらに巨大な壁として造り換えていく───! 後方には壁はない。爪を噛み、ファンエンは跳んで後退した。 それを果たして勝機と取ったのか、端末は高らかに唱い上げる。葬送曲じみた唱声に彼は、 「────フン。その程度で、止められると思うな」 嘲けりさえ含んだ声で、あっさりと応えた。 地を蹴り、ファンエンは霊棍を 無論、それだけでは圧倒的に高さが足りない。だが、────伸びた。彼の繰り出す多彩な攻撃は、ファンエンの技術によるところだけではない。伸縮自在の霊棍『ソンゴクウ』があって初めて成立する可変攻撃である。 棍が伸び上がり、ファンエンは易々と壁を突破する。ファンエン=コーガルにとっては、 ────そう。だからこそ、届かぬ星も掴めるはず。 宙に舞うファンエンの手元に、再び元の長さに戻った霊棍が握られる。 目前にはDGシステム端末の白い貌。もっともそれが貌であるかどうかなど彼は知らず、興味さえないが。 ッゴガァァァァァン!!!!!!!! 振るわれた霊棍は狙い違わず、その貌を打ち砕いていた。 * * * 地を這う炎熱が、夜を焦がし大気を灼く。 端末の『唱』によって崩されたビルの破片が降り注ぐ中、駆け抜けるは黒い炎虎。空虎首領ホムロ=カガリビの身を包む紅蓮は、その黒い装甲によって抑えられてなお降り注ぐ瓦礫を一瞬にして灰と化していく。 「ケッ! ナメんじゃねーぞゲテモノどもが───!!」 吼えてホムロの撃ち出す 断末魔のような唱声と、爆発炎上するDGシステムの端末。 最後の『唱』はがらがらと瓦礫を降らせるが、それもホムロの腕の一振りで灼炎により薙ぎ払われた。 「ガラクタの分際で俺様の暗黒シティをリフォームしようなんてなぁ、身の程を知りやがれッ!」 だん、と地を蹴り、二体目の端末へと向かうホムロ。 ────LuLuLuLuLuLuLuLu──── だがその進路に、端末は壁を築き上げる。聳え立つ断崖はゆうに彼の身長の三倍はあるだろう、およそ越えるには高すぎる絶壁。 だが迂回によって生じるタイムロスは、端末に反撃の隙を与えることに他ならない。彼の装甲は外敵に対する守りではなく、あくまでも内界を抑制するためのものだ。DGシステムから放たれる高出力のビーム砲を受けて耐え切れるものではない。 ───ゆえに、彼は速度を落とさず。 一切勢いを緩めぬまま、壁に向かい突っ込んでいく……! 「は────あッッ!!!」 ばぎんっ!と、音を立てて、左腕の装甲が弾け飛んだ。 かつて『八大地獄事件』において、火炎地獄に棲まう鬼すらをも焼き尽くした業火がここに再現される……! 「おぉおぉぉぉおおおぉぉッッ────!!!!」 皮膚を焦がし燃え盛る火炎に、なお足りぬとばかりにREIを注ぎ込む。文字通り自身を灼熱の弾丸と化し、ホムロ=アンダクルスターJr.は己の左拳を壁へ叩き付ける────! 高温を伴う衝撃。 着弾と同時に爆音を轟かせ、端末の造り上げた壁は一瞬で炎に包まれた。爆心地は耐え切れず亀裂が走り、ゆうに人一人が通り抜けられるほどの穴が穿たれている。 そして炎の壁を突き破り、姿を現す烈火の虎──── 「爆ぜろ────!!!!」 端末の迎撃などとうに間に合わない。 瞬きの間に距離を詰め、零距離から撃ち出されるホムロの轟炎が機体を赫熱に染め上げる……!! 爆音を上げて炎上するDGシステム端末。否、炎上などというレベルではない。それはまさしく爆弾だった。端末は腹部を粉々に砕かれ、全身を真紅に包まれる。 だが────それでもなお、機体は完全に停止してはいない────! 「クソが……!」 吐き捨てホムロは止めを刺すべく再び左手にREIを込める。 しかしそれを打ち出すよりも先に、聞き覚えのある、聞きたくはなかった声がそれを遮った。 「───フン。だから貴様は詰めが甘い」 燃え上がる機体の向こうから聞こえる声。嫌な既視感が脳裏を過ぎる。 「ッ、あのヤロウ……!!」 一瞬だが炎の向こうに光が見えた。おそらくは間違いないであろう予感に、全力でその場から退避する。次の瞬間──── 「────必殺、曼陀羅」 端末の頭部を粉砕し、星のハルバードが飛来する────! 「───ッッ!!」 端末の頭部を貫き、先程までホムロが立っていた位置に突き立つ一閃。遅れてDGシステムの端末が、炎と共に崩れ落ちる。 そして至って涼しげに、己の愛槍の傍らに降り立つ白装束。 「フン、避けたか」 「避けたか、と来たか」 巻き添えどころか、めいっぱい殺る気だ。敵意を隠そうともしないかつての同僚に、ホムロもまた敵意で応える。 ────必殺の騎士、シャド=ヘビメイト。敵の多いホムロにとっても、「天敵」と呼べる者のうち一人である。 もっともそれは、相手にとっても同じだろうが。 「……チッ。何しに来やがった、この正義被れ。余計な手出ししやがって」 「調子に乗るな。気を抜くにはまだ早いぞ山ザル、貴様が片付けたのは表面上のものに過ぎん。たいがいはまだ地下に潜伏しているはずだ」 地面から引き抜いた愛槍を右肩に担ぐシャド。その左手には、もう一本の『星のハルバード』が握られている。 「うっせーな、言われなくてもわかってんだよそんなことは。今忙しいんだからてめーは向こうに行ってろ。共闘なんてしねーぞ」 心底嫌そうな表情をバイザーの下に浮かべて、しっしっ、と手で追い払う仕草をするホムロ。対してシャドは涼しげな面持ちを崩しもせず、フン、と小さく鼻を鳴らした。 「それに関しては同感だ……だがな、テロリストを野放しにするほど俺は甘くないぞ」 言って殺意を込めた眼を、空虎の首領へと向けるシャド。左に手にしたハルバードの切っ先が、ずらり、と重い音を立ててホムロに向けられる。 「どういうつもりかは知らんが───少しでも怪しい動きを見せてみろ。その場で貴様の首を叩き落してやる」 鋭利な言葉に躊躇いはない。事実この場でホムロが空虎の首領として悪を為すと言うのなら、彼は僅かな迷いも見せずその武器を振るうだろう。とうの昔に別たれた道は、既に修正不可能なほどに捩れてしまっている。 彼らの間にあるのは互いを────その在り様を認めない意志だけだ。 それぞれが己の信念を以って、全力で相手を否定する。 「ハッ───やれるもんならやってみろっつーの」 喉元に突きつけられた刃を意にも介さず、ホムロはニヤリと笑みを返す。 相容れることなどありえない偽善と偽悪。ならばその敵意の応酬こそが、彼らの共存のカタチだろう。降り続ける雪など知らぬとばかりに舞い踊る火の粉と崩れゆく炎の中、背を向け、彼らは対峙する。 遠く耳に届くは、悪夢の具現が唱う 耳障りな蠢動を下らないと吐き捨てて、烈火と星義は同時に地を蹴った。 奇妙だった舞台が終わる。 何もかもが出鱈目で虚実混じり合う最後の夜、こんな気まぐれもあるだろう。 * * * 暗黒シティ西地区、プレーメール公園。 中央地区及び南地区ほど密集した高層建築のないこの区画でもまた、何十にも及ぶDGシステムの端末がその姿を現していた。 地面が割れ瓦礫に埋もれた公園は、もともとビルとビルの合間にあった小さな溜まり場だった。ベンチと一つしかない遊具、それに数本の木が植えられているだけの取るに足りないもの。 けれどそんな場所でも、いつからか身寄りのない子供たちのささやかな『秘密基地』になっていた。 「このぉッッ!!」 あるいは折れ、あるいは瓦礫に潰された木々の横を細身の少女が駆けていく。 元ナイツNo.105、キタラ=フォヌオート。彼女の操る魔法リボンが、風を切って唸る。 雪を薙ぎ散らし迫るリボンは、パシン!と端末の腕部に巻き付いた。固定された巨体の腕部がぎちりと鳴り、そのまま、キタラは腕を真横に振るう! めきめきめきぃッッ!!!! 大木が割れるような軋みを上げ、端末の腕が胴から引き剥がされる。 だがその程度では、DGシステム端末は止まらない。多少の破損ならば即座に修復できるのがカレらの強みだ。動けなくなるほどの損傷を受けない限り、カレらが停止することはない。 残された片腕がキタラに向かって振り下ろされる。端末の巨体から生み出されるパワーは、少女の華奢な体躯など容易く押し潰すだろう。 「ッ────!!」 彼女の立っていた場所に白い腕が叩き付けられ、瓦礫の破片が飛び散った。 間一髪後方へと跳んだキタラは、そのまま背後にあったビルの壁に足を着き──── ────LuLuLuLuLuLuLuLu──── 瞬間。 着地した壁面が、ぐん、とせり上がった。 「うそ───!!?」 変形したソレに捕らえたまま、端末の白い貌が近付く。口部に収束する光。 刹那、彼女の中で「もうダメだ」という諦めと、「まだやれる」という意地が鬩ぎ合った。 ……不運であったのは、カレらに意思がなかったこと。 もしカレらが状況を判断する能力を与えられていれば、防戦に徹し、自らの役割を達しただろう。しかしカレらはそれが不可能であるが故に、目的を阻む障害を排除する方向で動いてしまった。疲労を知らぬ兵器であり、無限に近い再生能力を有しているのならば、本来執るべきは持久戦である。些細な障害などに構わず、役割を果たすことだけに専念すべきだった。 ────そうすれば。この小さな抗戦者が、再び危険にその身を晒すこともなかったものを。 光が目前に迫る。思わず目を瞑りたくなる死の恐怖、それを、 「──────ッ!!」 ────少女は、気力でねじ伏せた。 無論そんなことで、結果が覆せるわけではない。もはや彼女の死は避け得ず一瞬後には消し炭になる、それは必定の結末だ。 だがそれでも。 ────それでもこの手には、ようやく掴めた未来がある。 守ってくれた誰かがいて、 消えていった想いがあった。 失ったもの、奪われたもの、こぼれ落ちていったもの。その果てに今ここにいるのなら、わたしは失くしたものの為にも、最後の瞬間まで諦めるわけにはいかない──────!! 身体を捻り、キタラは地面へ飛び込む。瓦礫の上になど落ちれば怪我は免れないが、このままじっとしているよりかはずっとマシだ。落下による加速を考えれば、選択は最善だった。しかしそれでも、やはり機体の攻撃のほうが速い……! 端末の口が開かれ、砲撃が放たれる。 ────その、直前。 「そーれいっけぇぇぇー!!!」 場違いなほど明るい声が聞こえ、端末の白い貌に新たな光が炸裂した……!!! 「ッ────!?!!」 一撃で端末は頭部の大部分を失い、キタラはそのまま重力に従い地面へと転げ落ちる。ほとんど受身も取れずまともに落下の衝撃を受けるが、痛がっている暇はない。今の声、今の攻撃が 即座に身を起こし、キタラは空を仰ぐ。黒々とした夜空には、予想通り───白いドレスを纏った、エンジェス=ゼットシズマの姿があった。 「よーしもう一発! キタラよけてねーっ」 「ッ……! あ、あのあーぱー娘ー!」 魔導礼装『鋼鉄のドレス』ウェディングフォームから放たれる攻撃魔法なら、端末の頭部と言わず全身を灰に出来るほどの火力を持っているはずだ。そんなものを間近で撃たれてはキタラとてただでは済まない。……いや、いちおうは回避を促す忠告があったあたり、エンジェスも自覚してはいるのか。 それはもはや救い手と言うより天災の類だ。敵も味方もなく吹き飛ばす暴風そのもの。 「いっくよーりゅーくん! 今度は、守るために戦おう!」 エンジェスの言葉に呼応するように、手にした竜剣が輝きを放つ。 「……な、なにが守るために戦うよ、ただあばれてるだけでしょーがっ!」 どうせ聞いてはいないだろうと思いつつも、剣をかざす友人兼トラブルメーカーに向かって叫ぶ。けれどそのデタラメぶりに、どこか懐かしさを感じている自分がいることを少女は自覚した。 ────あぁ。そう言えばこんなだったっけ。 知らず知らずのうちに肩肘が張り過ぎていたみたいだ。そんなふうに気負っていては調子も出ないというもの、黙ってやられるよりはマシなんてとんでもない勘違いだ。 そう、結末は常に一つきり。 未来なきものに今を生きるものが、負ける道理などありえない……!! 魔法リボンをしならせ、崩れたビルから突き出した鉄骨に巻き付ける。離脱するキタラの背後、再生を始めつつあるDGシステム端末に、 「せーのっ───くらえー!!!!♪」 無数の光弾が降り注ぎ、その巨体を殲滅する────! * * * ────LuLuLuLuLuLuLuLu──── 連なるビルの形を変え、歪み、灰塵を降らせながら征み行くDGシステムの端末。 おもちゃの兵隊の不出来な行進にも似たそれが、しかし、ややもせず止まった。思考能力など持たないカレらが歩みを止める理由はただ一つ。そこに、進軍を阻む何かが存在するということである。 冬の冷厳な空気には釣り合わぬ焦げた空と、病んだように振り続ける雪。 何もかもがデタラメな夜であったが、その中においてなお、ここは奇妙な何かに包まれていた。 ────まるで夕焼けだ。 月は頂点に在ると言うのに、燃えるような黄昏の中に迷い込んだ錯覚。 「ようこそ、お待ちしておりました」 凍えるような満月のもと。 端末の行く道を塞ぐように、一人の少女が立っている。 ふんわりと曲線を描く傘は、実用性よりは装飾品としての価値を求めたものだろう。傘の色と揃いのワンピースはこの状況下にあってすら僅かな汚れも見当たらない。 スカートの裾を持ち上げ、まるで古城の舞踏会にでもいるような優雅さで、傘の少女は一礼した。 「今宵はゆめうつつの交差する夜。迷える魂達よ、皆様がたの頭上にも紅い雪を降らせましょう」 たおやかに少女は微笑む。それは戦場にはあまりにも似つかわしくない、少女らしく愛らしい笑顔。────そう。曄咲くような笑顔で、 傘の少女の背後。 黄昏にも似た朱い光を瞳に湛えた少年が、口許を三日月に歪めた。 * * * 「……DG再構成計画、人為による奇跡の再現、か。 人の手では為し得ないからこそ『奇跡』と呼ぶのだろうに、矛盾した話だな」 しんしんと雪を零し続ける静寂の空と、眼下に広がる灰の街。 その二つを分かつ境界線において、ヴィオレッタ=ザ=カーストーンは他人事のように呟いた。 箒に腰掛け、明月を背に浮かぶ姿は物語の魔女そのものだ。眼鏡の奥の怜悧な瞳には、奇怪な街並みと聳えるDGシステム端末の姿が映り込んでいる。 微かに耳朶を掠める『唱』は、針の飛んだレコードが奏でる賛美歌のよう。積み木の街と古惚けた歌。まるで童話の中で見た、おもちゃの王国じみている。 ならば魔女がその中に身を置くのは当然のことだろう。迷うことなく彼女は箒を滑らせて、道を塞ぐように佇む端末の近くへと降下した。 「……悪趣味の極みだ。こんなモノで奇跡など起こせるか」 ────曰く、DGシステム端末の機体形状は、召還者の心象に強い影響を受けるという。 天使にも怪物にもなり損ねた半端なカタチ。飛べない翼を持った誰か。 怪物は、快楽や欲といった自己へ帰属する精神から人を殺すのではない。ただ生きるための一因として、理性でもって人を殺す。その意味でなら、あの娘は確かに怪物であっただろう。その手段が直接的か間接的かの違いだけ。 そのくせ罪悪感や自責なんて、怪物にあってはならない余分を持つから立ち往かなくなる。祈って祈って壊れるほど祈って、与えられたのは不相応な翼だけ。鳥籠からも出られないのに、そんなモノどれほどの意味があるのか。 「フン……被害妄想過剰だな」 そう思ってしまうのは、 ヴィオレッタ=ザ=カーストーンにはついぞ得られなかったもの。鳥籠の中にいても、或いは鳥籠の中にいたからこそ────君は、 「────……」 ……カタナ=シラバノへの親愛と嫉妬。クロラット=ジオ=クロックスへの嫌悪と未練。どちらも 『彼女』の想いは、『彼女』だけのものだ。今のヴィオレッタにそれを共有することは出来ない。 ───だけどそれなら、この胸に残る苦みは? 曖昧な、けれどこびり付いて剥がれない、後悔のあと味は何なのだろう────? 「────────」 ……何にもなりはしない。 カタチになど、してはいけない。 『彼女』が抱き、そして胸の裡に留めたまま消えた想いを、自分が表に出すことなど彼女のプライドが許さない。 もう一人のヴィオレッタが守った、ちっぽけなモノ。それをどうして、自分が壊すことなど出来るのか。 なら。 自分が出来ることと言えば、せいぜい────── 「───距離5、10時の方向」 呟きに一拍遅れて、地上で閃光が奔る。 炸裂音と共に間近のビルへと突き刺さる光の束は、端末の巨体に向かいコンクリートの塊と化したビルを倒壊させた。しかしDGシステム端末の『唱』によって、崩れたビルは機体を守る壁へと変化する。 「……問題ない。次弾、距離12。4時の方向」 誰かと話すような口調のヴィオレッタの言葉の後、再び地上で光が疾る。 端末を挟み、ちょうど築かれた壁と真向かいのビルが、閃光に撃ち抜かれ轟音を上げる。それも同様に壁へと形を変えたところで、ヴィオレッタは微かに口端に笑みを浮かべた。 「上出来だ。続ける」 言って彼女の手の中に、魔術行使の媒介である杖が現れた。くるん、と翻す動作に伴せ、宙空に魔法陣が描き出される。 かざされた杖に反応し強く輝く魔法陣。同時に、ぎしりっ、と軋むような音を上げて周囲の空気が凍り付いていく。 「─── 紡がれた呪文に共鳴し、端末を囲む壁と壁に氷の糸が張り巡らされる……! ヴィオレッタのREIで編まれた氷は、端末の『唱』で形を変えることは不可能だ。そも機体の動きを封じた氷柱は、端末に唱わせることなど許しはしない。 彼女は箒を滑らせ、地上へと降下する。 瓦礫の積み重なった道の真ん中には、見知った戦友がこちらに手を振っていた。 「おー。ご苦労さん」 女性らしからぬ口調の、細身には不釣合いな大砲を携えた彼女の名はセフィ=フェアリレーン。かつて魔王事件においてこのヴィオレッタと共に戦場を渡った、ダブルブレイドの異名を持つ大砲使い。そして、100人の日に命を落としたクロラットの友人────ナイツNo.154、ロージュ=ポリリーフの恋人。 セフィの傍らにふわりと降り立つヴィオレッタ。変わらぬ紫の魔女の姿に、セフィは氷漬けにされた端末を仰ぎ見て軽口を叩く。 「何年も寝てたわりに、ウデの方は健在か。相変わらず容赦ないね」 「この程度では肩慣らしにもならん。貴様の方こそ腑抜けから戻ったばかりで飛ばし過ぎじゃないのか」 「ご心配には及ばないって。っつーかこの程度の数じゃさぁ、俺の溜まりに溜まった鬱憤を全然晴らしきれないね」 吹っ切れた口振りの裏で、バイザーの下、微かに翳る表情には気付かないふりをしたまま、ヴィオレッタもまたDGシステム端末へと向き直る。 ────月下、冷たく光を屈折する氷の檻に閉じ込められた機体は、どこか籠の中の鳥を彷彿とさせた。 「……そうか。気が合うな」 平坦な言葉に小さく微笑い、セフィは砲身を構える。凍り付いた端末に、ヴィオレッタも杖をかざし。 「フン……つまるところこれは」 「そーいうこと。悔し涙を呑むしかない女の───」 『八つ当たりと知れ────!!!!!!』 放たれた幾条もの光が、機体を塵に変える────!! * * * 幾つもの光の華が、暗黒シティの夜を彩る。 英雄たちは戦った。それは剛く、誇らしい戦いであっただろう。 だがそれでも足りない。戦局を覆すには、あともう一手───決定打となりうる一押しが必要だった。 端末の戦闘力が如何に高いものではないとは言え、その巨体、その頑強さは容易く打ち倒せるものではない。そして何よりも数が多かった。確認されただけで既に二百体以上、対して彼らは僅か数十人。それぞれが一騎当千の力を有そうとも、劣勢は覆し難い。 ──────だが。 もしもここに、単騎にして万に抗し得る存在がいたら? もしもこの街のすべての英雄に、ただひとりで匹敵する“規格外”がいるとしたら────? 「───あなたは。何を為したいと願いますか」 ……鈴を、転がすような声だった。 戦場にはあまりにも場違いな、聖女のごとき慈愛に満ちた声音。 「現世に留まり続けることは、貴方がたにとってはもはや苦しいだけ。それでも、何かを為したいと願いますか」 さらりと絹の流れる音がする。 瓦礫の中にありながら、まるで神殿にでも迷い込んだかのような錯覚さえ覚える。それほどまでに、その女性の纏う空気は侵し難いものであり────そして、圧倒的なまでに異質であった。 「それならば、もはや言うべきことはありません。互いの夢を賭け共に全力を尽くしましょう」 ──────神聖革命結社『空冴』、霊姫エト=アイル。 玲瓏なる神秘の具現、有象無象では触れることすら適わぬ真の導き手がここに存在する────! 「奇跡を起こすのは、常に生者だけ。───還りなさい、あるべき場所へ」 口火を切ったのは、端末の方であった。 エトの宣言と同時に光の束が奔る。だがそれは、彼女の腕の一振りにまるで蒸発するかのように消え去った。 ───LuLuLuLuLuLuLuLu───? ……ここに来て、端末には意思らしきものが芽生えつつあった。 おそらくは畏れ。目の前のモノへの畏怖ゆえに、ただ目的を為す道具でしかないカレらに持つべきではない思考が生まれ始めていた。 地面が轟音を上げる。瓦礫の山を突き破り、いちどきに5体、計6体のDGシステム端末がエトを取り囲む……! ────LuLuLuLuLuLuLuLu──── カレらとて無限ではない。向かってくる障害には対処するが、基本的には単独行動を旨とする。それが今、ただの一人の相手を排除するために6体。 カレらの目的は戦闘ではなく、暗黒シティを“造り変える”ことである。その点から言えば、一箇所に機体を集中させる意味は薄いのだ。しかしそれでもなお、端末はこの場に集まった。 理由は一つ。 カレらが目的を成し遂げるためには、この障害をどうしても排除しなければならないという確信ゆえに。 一斉に放たれる咆哮。 並の人間であれば一撃でも必死たりうる死の光が、逃げ場のないエトに突き刺さる。さしたる装甲を身に着けているわけでもなく、避けることすら叶わない女性を葬るには充分すぎる火力。成す術もなく、彼女の姿は光に呑まれ──── ────そして、何一つ変わらぬ笑みを浮かべたまま、そこに立ち続けていた。 「───全力で、と言ったはずです。命を賭けずして届く夢などありえましょうか」 す、と白い手が掲げられる。それだけの動作で、エトを覆っていた爆光は音もなく掻き消えた。 ────LuLuLuLuLuLuLuLu──── 次々と唱われる『唱』も、もはや何の効果も及ぼさない。端末の声は、虚しく空に溶けていくだけだ。 そのカレらに向かい、一歩、エトは足を踏み出す。 いつの間にか彼女の背後には、淡く光を放つ 「こちらも遠慮はいたしません。 この苦界に留まる意味を信じるならば、夜明けまで持ちこたえて見せなさい────!!」 ──────光の柱が夜空を貫く。 遥か天上にまどろむ月へと昇るように、聖光は空に冴え渡り──────── * * * ────夜を裂く光の帯。 切り落とされた右腕を無造作に持ち、ジャッジ=アンダクルスターはその光景を無言のまま眺めていた。 ……語るべき感慨も、もはやありはしない。 この舞台において、すでに彼の役目は終わったのだ。ならばせめて最後くらいは、潔く見届けよう。悪い魔女と囚われのお姫様が一人二役などという、この滅茶苦茶な どのようなエンディングが待っていたとしても、彼がその生き方を変えることなどありえないのだから。たとえ、その終焉が、後悔だけで埋め尽くされていようとも。 「ッ、市長……!?」 その彼を、不意に呼び止める者がいた。 聞き覚えのある声にそちらを向けば、そこにいたのはこの舞台における最後の役者。────REIDOLLグレイナイン。 「ほぉう? 君がここにいるということは、君もまた今夜のお芝居では役目を終えたということか」 クク、と低く笑いを漏らすジャッジに、眉を顰めるグレイナイン。少女の姿は『エイデン』を去った時よりさらにボロボロになっていて、青いドレスはいたるところが千切れている。だと言うのにその表情は、彼と戦った時よりも確かなものを得たようだった。 「あ……そ、そんなことより先生はどうなったんですか!? それにその右腕……!」 問い詰める彼女の言葉には答えず、ジャッジはくつくつと喉の奥で笑う。間近の瓦礫に背を預け、切断された右腕をはぐらかすように軽く振った。 「なに、そう焦ることもあるまい。 すでに舞台はハネたのだ。出番を終えた役者は、舞台袖から見守るのが筋というものだろう?」 「は……? あの、何を言って……」 よくわからない市長の言葉に、グレイナインは訝しげに首を傾げた。 しかしジャッジはそれ以上は何も言う気がないのか、いつもの人を見下すような笑みで遠い夜空を仰ぐ。厚い雪雲に覆われた、眩已月に烟る空。 つられるように少女も視線を移した時、その視界を、一角霊馬と転生鳥を模した機動獣騎が横切っていった。 「────……!?」 夜に疾る白金の機影。幾度か目にしたその機体は、間違いなくフェルコーンのものである。そしてその背にある二つの人影──── 一つは搭乗者たるユニックス=F=オディセウスのもの。 そしてもう一つは、彼女が敬愛する「先生」のもの──── 「…………あ。……そうか」 事情はよくわからないけど、状況はなんとなく彼女にも理解できた。 彼の風体はここからでもわかるくらいにボロボロで、そもそも黒くて胡散臭いし、白い機体に乗ってはいるけどむしろ連れて行かれていると言った方が正しい。よほど隣にいる青年の方が様になってはいるけれど。 ……でも。それでもすぐにわかったから。 あのひとが、お姫さまを迎えに行く王子さま。 「先生、…………マスタ……」 狂ったように降り続ける雪。暗黒シティを白く縁取るこの夜は、いつかの初雪を思わせる。 ────だから、あの日の雪が、この上なく美しいものであったように。 この雪の終わりが、どうか最後には、輝かしい夢と共に在ればいい。 駆けゆく星を静かに見送る。 かつて彼と共に在った人と、今、彼らと共に在る自分。違えるものは多く、穿たれた溝はきっと永遠に埋まりはしない。 並び立ち、僅かだけ重なり合う何かはあったかもしれない。けれどきっと、そんなものは勘違いだ。こうして同じものを眺め、共有できたと錯覚しただけ。 夜が明ければ忘れるだろうゆめまぼろし。 口を開けば、きっとそれすら嘘になってしまうから──────言葉はなく、ただそうして、最後の幕間を閉じていく。 |
/"brilliant tales" Last Interlude out. be Continued to "DREAMGOLD". |