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web拍手お礼用小ネタ 『空の境界(講談社・奈須きのこ著)』改変
※該当作品のネタバレ注意!


[ ...not nothing heart. ]



 覚えていた熱が薄れていく。
 自分の体温とか、触れあった時の肌の温かさとか。
 こんな僕にも少しはあったんだと思えていたココロとか、君が信じていた僕のココロとかが。
 吹きつける夜風が、誰もいない隣が、体をどんどん冷たくする。
 けど、痛みはあまりなかった。
 痛みなら、もっとつらい痛みを知っていたから。
 ……しろい月に見守られて、ぼくたちは初めてのくちづけを交わしたっけ。


────そう。こぼれる涙だけが熱を帯びて。
      お互いくずれてゆく空をみてた。


 冷たい風が吹き抜ける。
 大切なものを自分から置き去りにする僕を、月は嘲うように卑睨していた。
 ……夜は、まだ明けない。
 思えばなんでもないことが、僕にとっては喜ばしいことだった。


────たとえば朝。
      やわらかく降り注ぐ朝陽の中で、きみはぼくの唄を聴いていた。


 不意に足を取られた。
 なんていうことはない、張り出した木の根に躓いただけ。普通ではありえないミスに自嘲する。
 どれだけ女々しい自分なのか、立っていることさえ苦痛だった。
 ……そう、立っていることさえ、息苦しかった。
 でもいつからか笑いあえるようになったと思う。僕は、君に恋をしたから。


────たとえば夕暮れ。
      燃えるように朱い湖畔で、きみとぼくは語り合った。


 “自動的”になるためのスイッチを入れる。
 このあいだまでとは比較にならないほどの力を持った『自分』を取り戻していく。
 対してこの・・僕はがらくただ。心は壊れたまま、もとの不出来な人形に戻るだろう。
 だっていうのに、僕はその事実に安堵しているから救いがない。
 いまだ燻り続ける感傷を、次の夜が来る時には確実に捨て去ろう。


────きみがいて、わらっているだけで、幸せだった。


 想い出は数え切れず、そのどれもが宝物だ。
 だからこそ鍵をかけて、大切に大切に胸の奥へ閉じ込めよう。
 色褪せないよう、形を変えてしまわないよう、……もう、思い出すことのないよう、深く。


────きみがいて、あるいているだけで、嬉しかった。


 ひどく体が冷えて、気が遠くなる。
 ふらつく足は今にも倒れそうだ。
 だっていうのに、僕は引き返そうとはしなかった。
 ……必ず、悪い魔法使いを倒す。
 たとえ離れてしまっても、僕の中で、君はかけがえのない光だったから。
 ……あの暖かさを、ずっと守っていたいから。


────ほんのひととき。
      木漏れ日が暖かそうで、立ち止まっただけ。


 でも、嬉しかった。
 僕を普通に扱ってくれる君が。
 あたしたちは家族でしょ、と真剣に話してくれることが嬉しかった。
 口にすることはもうないけれど。
 僕にしてみれば、きみのほうがずっと奇跡みたいにキレイだった。


────いつか、同じ場所に立っていられるよときみは笑った。


 もうすぐ夜が明ける。
 それがきっと、ヨシュア・ブライトだった僕の最後だ。
 君の笑顔も、声も、こんなにも鮮明に思い出せるのに。
 つい昨日までは共に同じ空を見上げていたはずなのに、そのすべてが、今はもう遠い昔のことのよう。


────その言葉を、ずっと、誰かに言ってほしかった。


 振り返ってみれば、僕の今までは楽しかったことばかりで、つい顔がほころんでしまう。
 たった5年間の昔と、たった数ヶ月の今まで。
 駆け抜ける時間は早くて、掴みとることもできなかった。この身には過ぎた夢だったけれど、でも、感謝してる。嘘みたいに幸福だった。
 かわりばえのしない退屈な日常生活。
 騒がしくて穏やかだった日々の名残。


────それはほんとうに。
         夢のような、日々でした。


 ありがとう。でも、ごめんなさい。
 ……僕は顔を上げて、白み始めた空を見上げる。
 無くしてしまうのはわかってる。
 きみが信じてくれたものや、きみが好きだといってくれた僕を。
 わかっていても、僕はあいつを倒す。
 それで今までの自分がみんな消えてしまうとしても、きっと誰もそばにいてくれなくなるだろうけど。

 それでも────それでも僕は、君には陽だまりの中で笑っていてほしいから────



────そうして彼は独り旅立つ。
      目的を為すためだけの機械になればことは易しい。

      ……だから、こんな感傷はもうこれで終わりにしよう、と。

    黎明に溶けゆくひとりきりの月に、
      一度だけ、太陽の面影を幻視した──────





某反転スレの住人だなんてソンナコトナイヨー。
ABと桜ネタで(ry
時列系はFCエンディング直後のヨシュア。なんだかんだでかなりの部分を改変しなくちゃならなかったので、原文とはわりと風味が変わってしまった感じです。

write:2006/06/12


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