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web拍手お礼用小ネタ ルフィナ←ケビン


[ moratorium. ]



「なぁ───そう言えば、ルフィナ姉さんは恋人とかおるん?」

 そう、ケビン的には会心のさり気なさで、しかしセルナートあたりがその場にいれば噴飯ものの白々しさで切り出された質問に、姉さんことルフィナ・アルジェントはむっとした表情を浮かべた。
「……それは、この年になって彼氏すらいない私に対する嫌味と受け取っていいのかしら、ケビン」
「そ、そんなわけないやん!」
 禁帯出の資料を書棚から抜き取りつつジト目を向けてくる女性に、ケビンは内心安堵の息を漏らしつつ、ばたばたと手を振る。
 ───アルテリア法国封聖省、星杯騎士団本部の資料室。とあるアーティファクトの文献を調べに来たというルフィナに、休憩中であったケビンは偶然はち合わせたのだった。

「えぇと……ほら、姉さん美人やし。恋人の一人くらいおってもおかしないなと……」

 あさっての方に視線を泳がしつつ、そう誤魔化すケビン。幸いに───とも言い難いが、ルフィナは僅かに眉をひそめただけで、さして気にしたふうもなく嘆息をついた。
「二人以上いたら問題だと思うけど。……実際、男の子に言い寄られたりしたことなんてないわよ、私。子供たちの世話や自分の仕事で手一杯で、そういうのとは縁がなかったし……」
 ため息混じりに呟く彼女ではあるが、現実としてルフィナ・アルジェントに好意を持つ異性がそれなりにいたことをケビンは知っている。と言うか、従騎士仲間でも彼女に憧れる人間は少なくない。単にそのほとんどが、アプローチにルフィナが気付くことなく空回りするか、友人であるアイン・セルナートに恐れをなして遠巻きに眺めるだけか、はたまた彼女セルナートによって人知れず葬られているかのどれかなだけだ。
 ……現に、ここにも一人。彼女に想いを寄せながらも、口に出来ない人間がいるのだから。

「んー。ケビンがお嫁さんに貰ってくれればいいんだけどなー」
「何言うてんねん!?!」

 思わず声が裏返ってしまった。
 動揺するケビンにくすくすと悪戯っぽい笑みを向け、ルフィナは覗き込むようにして顔を近付けてくる。
「あら、ケビンは私じゃ嫌なの?」
「っ……! じょ、冗談は程々にするもんやで!」
 ざざざ、と音を立てて飛び退くケビンに、ルフィナは軽く唇を尖らせ、
「うぅ、ケビンがつれない。お姉ちゃんは悲しいなぁ……」
「あ、あのなぁ! それが姉の言うことか……!」
 彼にしてみればあまりにも笑えない冗談だ。ひとの気も知らないで、と、心中で呟く。
 ケビンにとってルフィナ・アルジェントは、母代わりであり姉代わりであり、そして何より一人の女性であった。
 初めて出会った日から募らせ続け、そして、叶うことのないものだと自分に言い聞かせてきた想い。それでも少しでも彼女に近付けるようにと、星杯騎士としての道を選んだ。
 ……だと言うのにこの姉ときたら、面白半分で男の純情を弄ぶようなことをぽんぽんと。いつまで経っても弟としか見られていないことを、むざむざ思い知らされているようなものだ。

「……まったく……そんなアホばっか言っとると、ホンマに嫁の貰い手がなくなるで。姉さんかて、いずれは……結婚せなあかんのやし」

 一瞬だけ、言葉にするのを躊躇った。その僅かな間隙に彼女が気付いていなければいい。
 つい視線を逸らすケビンに、ルフィナはそうねぇ、と、どこか他人事のように相槌を打つ。
「まぁ、いつかはそういうこともあるだろうけど。でも、当分はアテもないもの。
 だいいちケビンやリースが結婚するまでは、私だって結婚なんて出来ないわよ」
「はぁ!?」
 何かさらりととんでもないことをのたまう姉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。よほど驚いたのか、ルフィナは目をぱちくりさせつつケビンを見る。
「な……何。そんなに驚くようなこと?」
「当たり前やっ! そ、そーいうんは年長者からってのが常識やろ!? 俺かてルフィナ姉さんが幸せになってくれんことには結婚する気なんてあらへん!」
 と言うか、それぐらいでないと諦めきれそうにない。自分では彼女に相応しくないことはわかっているが、気持ちを捨て去ることは出来なかった。ケビンにとってルフィナへの思慕は、すでに自身の一部分と言ってもいいものなっている。
「ちょっ……そ、そんなのダメに決まってるでしょっ。あなたたちが落ち着いてくれないことには、私が結婚なんて出来るわけないじゃない。それともケビンは私に一生独身でいろって言うの?」
 腰に手を当てて拗ねた表情を浮かべるルフィナに、思わず喉から飛び出しかけた言葉を全力で押し留める。

────それは言えない。結果は同じだとしても、せめて、彼女に並び立てるようになるまでは。

「っ……無茶苦茶やで、ホンマ……」
 深く息を吐くように、辛うじて無難な台詞を口にした。
 それに、ルフィナは不満そうにむーっとむくれて、
「もー。やっぱりケビンがお嫁さんに貰ってくれたら一気に解決なんじゃない」
「却下や、却下!」
 一言に伏すと、ケビンはフイと顔を背けて別の資料棚に向かってしまう。その背を見送り、ルフィナはそっとため息をついた。





 やがて訪れる悲劇の時。
 その、ほんの数ヶ月前の出来事。





ルフィナ姉さんはこんな感じの可愛いお姉さんだったのではないでしょーかー。
ルフィナ←ケビンと見せかけルフィナ→←ケビンという見事なまでの報われなさ。お互い「いつかは…」なんて思ってるんだけど、そんな「いつか」は来ませんよ、っていう。すいません趣味ですそういうのだいすきです。
神父SSは過去ものばっかりになりそうなヨカーン。

write:2007/10/08


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