An absolute separation is getting over and we meet again.



────泣き声が聞こえる……


 誰かが、ずっと泣いている。
 それが誰だったのかは思い出せないのだが、とても大切なひとだったような気がする。
 誰かは一向に泣き止まない。嗚咽さえ漏らさず、涙の一粒も零すことなく、それでも泣き続けている。

 ごめんなさい、と。

 延々と、彼女はその言葉だけを繰り返していた。
 謝罪は決して終わらない。誰にも赦すことが出来なくなった罪だから、彼女は償うことすら出来ず、ただただ謝り続けるしかない。

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 ……ああ、やめてほしい。
 そんなふうに謝り続けられたら夢見が悪いし、だいいち謝るとしたら俺の方なのだ。そう言いたかったのだが、口はまったく動いてくれなかった。ただ、闇に沈んでいくような感覚だけがある。

 ごめんなさい。ごめん、…………ごめんね……

 だから、謝られても嬉しくないって。
 言葉で伝えられないならせめてジェスチャーの一つでも、と思ったが、体の方もさっぱり言うことを聞いてはくれなかった。そんなことをしている間にも、どんどんと意識が黒く塗り潰されていく。声が遠くなる。
 聞こえなくなるのはありがたいが、それじゃあマズいな、と漠然と感じた。ここで俺が消えてしまったら、彼女はずっと泣き続ける。それは良くない。
 指の一本も動かない腕を伸ばす。実際は動かなかったわけだが、ただ、光に指先がかかったような手応えを感じた。
 力をこめる。イメージはすぐに霧散してしまったが、少しばかりの時間稼ぎにはなったようだ。宙に浮いた僅かな間隙に、せめて約束をしよう。

 今度は、絶対に間違えない。
 もしも次があるのなら、こんなふうに泣かせたりしないと。
 だから君も、信じて待っていて欲しい。俺が約束を守れるように。

 果たしてそんなものに効果があったかどうかは、もう、俺には確かめることは出来なかった。
 深い闇に意識が沈む。どうか。


────どうか、きみがわらえますように。





怪 盗 物 語 -La prevenir-
The dark of under the moon, person who brandishes the blade of a inocence feather.



『君は僕の友達』

* * *


 居並ぶビルの谷間を縫って、二つの人影が駆け抜けていく。
 一人はもちろん俺。前時代的にもほどがある黒マントがばさばさとはためく。そしてもう一つは俺の横を併走するように飛ぶ、妖精じみた光る翅をった少女。
 暗黒シティ経済の中心地である南地区は、駅周辺を主に高層ビルが建ち並ぶ典型的なオフィス街である。0時も回った深夜となれば、海底のような静けさが一帯を支配するのが常だった。もっとも実際のところ、海底がどんなものかなんて知らないわけだが。
 ひと気の途絶えた細い路地裏をデタラメに走り抜けると、ややもせず通りに出た。メインストリートほどの広さはないが、昼間であればそれなりに人通りがありそうな街路地。それも、今はすっかり静まり返っている。

「どう、撒いたかな?」

 背中から抱きつくような格好で、俺の肩から顔を覗かせた少女が訊いた。広げた翅のため重さを感じはしないのだが、もとよりこいつの小柄さでは、実際に背負ってもたかが知れているだろう。
 少女の名はキィ。いちおうは、俺の相棒と言える存在である。
「んん……多分ね。でもあの熱血警部がそう簡単に諦めるかなぁ」
 周囲をざっと見渡しても、通りは相変わらず暗いままだ。武警のライトも見えないし、追っ手の気配も感じられない。……のだが、安心するのはまだ早計だ。何しろ相手はあの・・警部である。
「ムキになってミサイルでも撃ち込んでこないか心配───」
 と、言いかけて絶句する俺。視線は向かいのビルに釘付け。
 一区画隔てた向こうから煙を吐いて飛来する円筒形……信じらんねぇ、本気でミサイル撃って来やがったあのバカ警部────!


『怪盗警報発令、怪盗警報発令! B17ブロックにて目標を補足!!
 サウスビルより聖石『獅子の涙』を強奪し依然逃走中────!!』


 静まり返ったビル街に、ありえざる轟音が響き渡る。

「な、何考えてんだあの男は────!」

 容赦なく撃ち込まれまくるミサイルが、周囲のビルに着弾し爆音と衝撃を撒き散らす。夜の空にもうもうと立ち上る黒煙と降り注ぐ瓦礫。それらを掻い潜りながら、必死で通りを駆け抜けていく俺。
「街中でミサイルなんて正気の沙汰じゃないだろ……!!」
 背後で閃く爆光がだんだんと近付いてくるのが恐ろしい。爆風と足下から伝わってくる衝撃が半端じゃなくなってくるが、そんなものに構っている暇はなかった。ちゃっかり安全圏に退避しつつ呑気に応援などしてるロリもとりあえず無視。車影のない道路を全力で走り抜ける。
 と言うか、こんな立体道路の上で爆発なんか起こされたらひとたまりもねー!

「ッ────!!?」

 交差点を抜けたその瞬間、真後ろで光の華が咲いた。
 衝撃で身体が浮き上がる。声も出ないまま縦に一回転して、そのままゆうに十数メートルは吹っ飛ばされる俺。そしてアゲイン地面。
 辛うじて受身を取るものの、ずしゃーっと情けなくアスファルトの上を転がった。マジ痛い。泣きそう。

「〜〜〜〜っ……! も、もーいやだ……こんなもん捨てちまおうよ……」

 よろよろと起き上がりつつ、懐に手を入れる。指先に触れる硬い感触。
 燃え上がるビル街の炎に負けじと輝くのは、透き通る石の中にさらにダイヤの形をした結晶が収められているという何とも摩訶不思議な宝石だった。
 いわく、聖石『獅子の涙』。
 俺が───と言うか俺たちが、半刻ほど前に暗黒銀行から盗み出した宝石である。つまり現在、武警の連中に追われている原因。

「ふざけんなーッ!!」

 ぱっかーん、と小気味のいい音と共に、再び俺の身体が宙を舞った。
 キィが振るったやけに痛そうな形状の鈍器、もといステッキで殴り倒され、ごしゃ、と地面に打ち付けられる。その俺の首根っこを引っ掴んで、容赦なく捻り上げるキィ。
「せっかく盗んだ宝を捨てる……? そんな恥ずかしいマネ許すと思う?
 怪盗は『命落としても宝落とすな』って教えたでしょ!」
「ぐぉぉぉ……! いや、でも命はあった方がいいって……」
「よくないの!」
 ぎりぎりと首を絞め上げられて呻き声を上げつつも反論を試みてみるが、予想通り問答無用で一蹴された。さらに殴る。そして深々とため息を吐き出し、キィは手にした鈍器ステッキを肩に担いだ。
「……150年クロックカス家に仕えた私には、なんとしても君を大怪盗に育て上げる義務があるんだから。君がそんなだと、私はクロックカス家の墓に顔向けできないよ」
 どことなく遠い目をしつつ、キィは肩口にかかる二房の三つ編みを指で弾く。髪の間から見える長い耳、そしてその背で晧々と輝く二対の翅。150年という言の通り、容姿こそ幼い少女だがこの娘は間違いなく人外なのだ。
 キィ=ヒストウォーリー。代々クロックカス家の当主に仕えてきたという、お目付役の精霊である。
 そして────非常に不本意ではあるのだが、俺がその『怪盗名家』クロックカス17代目の当主。クロバード=ルル=クロックカスなのだった。


* * *

『泣く時も笑う時もいつだってとなりに君がいた』

* * *


────そう、すべては三年前。
 もののはずみで家業を継いでしまったのが、思えば運のツキだった。

『さぁ、選択の時がやって来ました』

 ひどい雨降りの夜だった。
 ディアス=ルル=クロックカス────英雄怪盗なんて酔狂な二つ名で呼ばれてた親父の死を、俺はその夜キィから告げられた。どこか曖昧な記憶。その中で、あいつはどんな表情をしていたっけ?

『このまま普通の人間として一生を終えるか、それとも』

 黒い空。開けられた窓から吹き込む雨と風。灰色の光。ひらひらと舞う羽根の瞬き。
 ……あぁ、俺はあの時なんだって、キィの言葉に頷いたりしてしまったのだろう。クロックカス家の歴史とかプライドとか、そんなもの俺にはどうでも良かったはずなのに────


「……つーわけで、俺は怪盗なんてやりたくないのよ」
 はっ、と挑発するように、大げさに肩をすくめて言い放つ。
 理由は明白。
 ンなもの、どう差し引いても割に合わねーからである。
 身に余る欲望は破滅をもたらす。人間、分相応ってものがあるのだ。妥協さえ出来ればそれなりの幸せなんてどこにでも転がってるもので、分を超えた輝きは自らを焼くだけだ。そんな簡単なこと、おとぎ話を省みるまでもなく親父の末路が語っている。
「な……君はまだそんなこと、」
「まだそんなことを言ってるのか───ッッ!!!」
 瞬間。
 ごぅん、ごぅんと、天が大きく唸りを上げる。
 キィの言葉を遮って、拡声器越しの声が真上から鼓膜を劈く。黒々とした夜空を仰げば、月を隠し、ビルとビルの間から猛然と姿を現す巨体────武装警察機動戦艦、その名もブケイアーク。船体正面にでかでかと掲げられた「武警」の二文字を見れば間違えようもなかった。
 そしてその機体の上でふんぞり返っている、いろんな意味でお近付きになりたくない武警の熱血迷惑警部、本名リカルド=ジャッジ(46)……!

「おーしそこまでだクロバード! おとなしく『獅子の涙』を返してもらおうか!」
「あ、クロウ君だーやっほー。無事かなー?」

 ……と、やたらフレンドリーな見た目学生ライクの三つ編みメガネ。フルネームはロザリオ=シラバノ、愛称はロザリー。なんと俺の幼なじみだったりするのだが、どういう因果か武警に入って、ジャッジ警部と共に日々俺を追いかけ回している謎の生き物だ。




────────ぐるん、と。世界の色彩いろが反転する。




 叩き付けられる鋼の巨腕は、オレの体にかすりもしない。一撃でも当たればアウト、けれど今のオレには、その動きは冗談みたいに緩慢に見えた。
 身体が軽い。圧倒的な全能感と解放感。つま先まで自在に身体を動かせることが、こんなに楽しいなんて思わなかった。やべぇ超楽しい、生きてるってサイコーじゃん!

『ッこの、ちょこまかと……!』
「ジャッジ警部、無茶しすぎですよぅー! 右腕関節に負荷がかかり過ぎて……、うわゎ、モーターもっ!?」

 人型機動兵器の中から聞こえる、ジャッジの苛立った声。あの様子では後ろで忙しなくキーボードを叩いているロザリオの警告は聞こえてないに違いない。熱血ってのも考えものだね、すっかり頭に血がのぼってる。
 もっとも今はオレも同じか。熱血も熱血、身体中の血が沸騰しそうなくらいホットですよ。気分はもうトんでいけそうなほどにハイ。

 横薙ぎに払われた豪腕を後ろへと飛んでかわす。ザザ、と慣性に従い砂煙を撒き上げつつ着地。このまま避け続けても埒が明かないな、なんてことを考えた矢先────思わずオレは目を疑った。

 なんとあの警部、負荷がかかっていた機動兵器の右腕を肩から引きちぎり、オレめがけてブン投げてきたのである……!

「ッ────!!?」

 直撃。轟音。
 もの凄い音と共に突っ込んできた右腕は、地面を抉り瓦礫を撒き散らす。もうもうと立ちのぼる砂煙。
「く、クロウくん!?」
『やったか……!?』
 キィの悲鳴と、残った左腕でガッツポーズをとるジャッジ。だが────

「ジャッジ警部、上っ……!」

 ロザリオの声より早く、気付いたのはキィだった。
 ジャッジの操る機動兵器のはるか頭上────夜の空に、黒いマントが翻る。

「キィ」
「は、はいっ!」

 傍らまで追いついたキィがすぐに意図を察して頷く。
 足場すらない空中、このまま落下すれば姿勢を変えることも出来ず迎撃されてジ・エンド。けどまぁ上ってのは、基本的に有利なポジションなわけで。あとはジャッジが体勢を整える前に決着させる。

「────我は刃、光絶つため」
「────我は剣、闇示すため」
「精霊魔法、霊剣変幻────」

 呪に従い、キィの姿が光に包まれ変じていく。
 舞い散る光の羽根。オレの手の中に握られた黒い短剣ナイトブレードが、それに呼応するように強く輝く。光は剣を中心に渦巻き────確かな質量をもって、再臨するはクロックカス家三大家宝が一つ……!

「霊剣────フェザーブレイド」

 月光を撥ねて閃く白刃を、真名と共に振り下ろす────!



 虚空を切り裂く白い軌跡は、ジャッジの操る機動兵器を一刀のもとに両断した。


* * *

『でも僕は罪をおかしました』

* * *


 防音性など皆無に等しいオンボロアパートの一室から、どたんばたんと賑やかな音が漏れてくる。

「はいっ、かんせー! クロ君、ナベ敷きナベ敷きー」
「はいはい」

 六畳一間のダイニング兼寝室に、隣のキッチンから土鍋を持った少女が姿を現す。ロザリオ=シラバノ、武装警察犯罪対策部二課所属の女性警官である。いつもとは違い眼鏡を外し、服も武警のユニフォームではなく私服だ。首の後ろでまとめた三つ編みが、彼女の動きに合わせてぴょこぴょこと跳ねる。
 その彼女の言葉に、折り畳みテーブルを拭いていた青年は顔を上げた。中肉中背、ぼさぼさの黒髪にごくごく平均的な容姿。あまり似合わないサングラスが特徴の彼は、脇に寄せていた鍋敷きをテーブルの真ん中に据える。
「ん、二人分にしては多くない?」
 蓋の隙間からほくほくと湯気をたてる土鍋を見て、思わず呟く青年。しかしロザリオはぴこぴこと指を横に振って、
「えっへん、多めに作っておいたのだー。明日はこれの余りで、お雑炊にするんだよー」
 言って、無意味に胸を張ったりする。
「あー、なるほど。いや、重ね重ねありがたいです」
 今こうしてまともな食事にありつけるのも彼女のおかげだ。いきなり「お鍋にしよう!」などと言って土鍋持参で押しかけてくるのはどうかと思うが、それも食欲をそそる温かな匂いの前では大した問題ではなくなる。有言即実行のバイオレンスさを大目に見てもお釣りが来るくらいだ。たぶん。
「それじゃ、いただきます」
「はーい、遠慮なくやっちゃってねー」
 小さなテーブルを挟んで向かい合って座ると、二人は揃って両手を合わせる。かぱ、と鍋の蓋が開けられ、よく煮えた具材が顔を覗かせた。
 茶碗によそったご飯を受け取り、それぞれ鍋の中身を小皿に取り分けていく。日々金欠に苛まれている彼としては、この幼なじみの少女が何の前触れもなく差し入れてくれる食事は生命線と言っていい。かなり情けないような気もしなくはないが、あいにく彼はプライドとかそういうものをかなぐり捨てている人間なのだった。だいいち厚意でしてくれていることなのだから、ありがたく受け取っておくのが筋というもの───の、はずである。
「あ、そーだクロ君。ナベ掴みがなかったんだけど」
 ぱくぱくと突付いた魚を口に運びつつ、思い出したようにロザリオが言う。そう言えば彼女はさっき、布巾を重ねて鍋を持っていた。
「あぁ、ごめん。確かこのあいだ破れたから捨てたんだった」
「そっか。じゃ、後でナベ掴み買っておかないと」
 まるで自分の家のような言い草である。もっとも実際、三日に一度は彼女がキッチンを使っているのだから無理もないことではあるが。
 数年前に実家を出て、そう離れた場所ではないとは言え一人暮らしを始めたものの───なんだかんだでほぼ毎日、目の前の少女とは顔をあわせている気がする。

「────それでロザリー。今日はいったい何の用だい?」

 何気なく。
 ごく当然の、食卓の会話の一部分のように切り出された言葉に、ロザリオが僅かに表情を曇らせる。嘘のつけない性格だ。
「ん……と。確かに用事もあるけど、別にご飯のコトを恩に着せようとか思ってたんじゃないよ?」
「それはわかってるつもりだけど。まぁ、ロザリーにそんな器用なことが出来るとは思わないし」
 彼女の人柄などいまさら確認するまでもない。何しろ十年来の付き合いなのだから。
 サングラスを外し、彼はロザリオを見据える。直に見る面差しはやはり彼の兄とよく似ていた。

────探偵騎士、クロラット=ジオ=クロックカス。かの怪盗クロウの紛れもない双子の弟である。

「……ジャッジ警部の要請……って言えば、わかるかな。あ、もちろん断ってもいいんだけど」
 居住まいを正し、彼女らしくない控えめな口調でそれだけを言う。だがクロラットには、それだけ聞けば凡そその内容に察しは付いた。
「フム……まぁ、そういうことなら協力するよ」
「え」
 あっさりとした返答に、思わずぱちくりと目を瞬かせるロザリオ。しばしの間の後、彼女はむー、と目を瞑って唸りながら、
「でも、その……兄弟なんだよ?」
 と、複雑そうな声音で呟く。この殊勝さの半分でも、普段から備わっていればいいものを。……困ったことに、彼女の言うことはいつも正しいのだから。
「まぁ、いちおう。
 でも仕事を選り好みしていられるほど、潤沢な財政状況にないわけだし。こんな日もくるかなー、とは思ってたからね」
「むー……」
 まだ唸っているロザリオの視線を避けるように、彼はサングラスをかけ直す。頻繁に顔を合わせている少女とは対照的に、もう何年も会っていない兄。もっとも顔を合わせずとも、怪盗クロウの情報はいやがおうにも耳に入って来るのだが。

……どのみちジャッジの要請がなくとも、いずれ対峙することになっただろうな。

 口には出さず、そう考える。わざわざ彼女に聞かせるようなことでもない。
 どちらにせよもう、武装警察と協力することは決まったのだ。そちらの方が身の振り方としては楽だし、むしろ出目は良い方だろう。
「君はクロバードを更生させたいんだろう? ぼくだって似たようなものだし、別に問題はないんじゃない」
「……うーん、それもそっか。よぅし、じゃあがんばろー!」
 鍋の具を咀嚼しつつ言うクロラットと、コロリと頭を切替えて元気良く宣誓するロザリオ。
 ……さて、それじゃあ仕事は仕事らしく、彼らと共に怪盗クロウの逮捕を目指そうか。


* * *

『たった一度の誤解』

* * *


 白い壁にどこからともなく映し出される映像。その中には、黒いマントを纏った青年と光の翅を持った少女がいた。
 そして部屋の中心に佇む、威容の老人……魔導名家ラーストーン当主、ゾァヌ=ラーストーン。既に齢百を越え、なお君臨する呪縛と閉鬱の魔導翁である。
 彼の落ち窪んだ双眸が、虚ろな───しかし猛禽を思わせる鋭い眼差しを、映像の中の二人に向ける。

「────アカヌ石を求めるか、怪盗クロウ……
 キィ=ヒストウォーリーよ、まさかこの小僧が、あの扉を開くと言うのか?」


* * *

『たった一度の怒りで』

* * *


「クロウくん!」
「キィ!?」

 辿り着いた薄闇の部屋で俺を最初に迎えたのは、さっき引き離されたはずのキィの声だった。
 捜すまでもなく、その姿は入口の真正面に見えている。だがキィの足元、見たこともない魔法陣から伸びる8本の光の帯が、まるで檻のように彼女を閉じ込めていた。
 キィの背からは、あの二対の翅が消えている。いくらキィが人間さながらの実体を持っていると言っても、そのカタチはREIで編まれた擬似的なものに過ぎない。そして、現実に干渉するためのマニピュレーターである翅が消えているということは────
「キィ……!」
 駆け寄り手を伸ばす。しかし俺の手は、まるでそこに何もないかのように、キィの身体を苦もなく過ぎただけだった。
「もー遅いよクロウくんー! だいたいあんなミエミエの罠に引っかかるなんて、怪盗の名折れでしょ!」
「………………」
 一方再会するなり、元気に俺を罵倒してくれるパートナー。
 ……いや、やっぱり置いて帰ろうか、これ。

「……ってわけにもいかないよなぁ、やっぱり」

 いちおう、これでも俺のパートナーなわけだし。猫も三日飼えば情が移ると言うが、それが3年以上ともなればもう身内だ。ほっといて帰るのも寝覚めが悪いってものである。
「どうかな、解けそう?」
「んん、……難しいな。キィにもわからないか」
 キィの足元に屈み込み、赤く灯る魔法陣を調べる。基本となる八角形の内側に複雑なラインが走り、その各頂点からは牢を形成する光の帯が伸びていた。
「うん……何しろこの魔方陣を敷いたのって、ゾァヌ=ラーストーンだもん」
「はぁ!?」
 思わず素っ頓狂な声を上げ、キィの顔を見上げる。
 その時部屋の暗がりから、ゆらりと溶け出るように小柄な人影が現れた。

「───その通りだ、怪盗クロウよ」


* * *

『僕は君に剣をつきたてた』

* * *


 目が覚めても夢の続きが見れるのか、と、思わず一瞬錯覚した。

「……あ、よーやく起きたな寝ぼすけめ。もう夕方だよー、いくらなんでも寝過ぎでしょ」

 夕暮れの陽に染まる朱い窓際。
 緋色の夢の姿のまま、キィがそこに立っている。
 ……いや、夢とは違うか。夢の中の少女は、確か───確か、あれ? 夢の中のキィは、どんな格好をしていたっけ。

「…………ま、なんでもいいか」
 忘れたということは大したことではあるまい。奇妙な夢の残滓も、すでに曖昧に崩れ始めている。
「? 何が?」
「いや、ヘンな夢を見ただけ。こっちの話だからキィは気にしなくていいよ」
 ベッドから這い出つつ、キィに向かってぱたぱたと手を振る。さして興味もなかったのか、彼女はふーん、と気のない返事を寄越しただけだった。
 しかし俺、もともと夢なんて見ない方だったんだが。やはり衝撃的過ぎる弟との再会でセンチになっているのではあるまいか。……と、そう言えば。
「キィ、ずっと起きてた?」
「え? ……うん、まぁいちおうね。私、基本的に睡眠って必要ないし」
 窓から通りを覗いていたキィが、こちらを振り返って答える。休養を摂らなくても四六時中あのテンションなのか、恐ろしい娘め。
「つまり、何もなかったってこと?」
「うん。……なーんかおかしいよねー、ラーストーンに手を出して、何にも報復がないなんて。その日のうちにはここを引き払わなきゃ、くらいに思ってたのに」
 わりとボロいが、それでも住み慣れたアパートだ。引き払わずに済むならそれに越したことはないわけだが……確かに都合が良すぎるか。あの爺さんなら昨夜のうちにはここを突き止めていてもおかしくない。
 それとも────あちらさんの方に、手を出せない事情でもあるのか。


* * *

『一面は暗闇』

* * *


「───こんばんわ。こんな時間にお客様なんて珍しいですわね」

 くすくす、という微笑い声。
 灯りのない室内に、窓から伸びる月の光がちょうど途切れるその境界。凝った意匠の施された椅子に腰掛けて、一人の少女が侵入者を見つめている。
 ……いや、実際に見つめているかどうかはわからない。彼女は確かにこちらに顔を向けてはいるが、その両目は奇妙な模様の描かれた分厚い布で覆われているのだ。洒落たアクセサリーと言うには、身に纏ったドレスとはあまりにも不釣合いな装飾。
 半ばまで覆われているとは言え、鼻筋や口許から端正な面立ちであることは見て取れる。いかにも深窓のご令嬢といった佇まいの少女が、奇妙な眼帯で顔を覆われ、時計塔の頂上にある狭い部屋に押し込められるように生活しているなんていうのは────不自然と言うか、なんと言うか。
「…………? ごめんなさい、どちら様かしら? 何しろこんな装いのものですから、窺うことが出来ませんの」
 月光を撥ねるプラチナ・ブロンドが、小首を傾げる仕草に合わせてさらりと揺れる。
 こんな時間に挨拶もなく訪ねてくる人間が不審者でないはずがないだろうに。警戒心がない、と言うよりは、この状況ですら少女は楽しんでいるように見えた。
「────────」
「クロウくん……」
 あんまりいい予感はしない、か。キィも同感みたいだが、ここまできて手ぶらで帰るってのも怪盗の面目丸潰れだし。予定通り行かせてもらおう。

「こんばんわ。夜分遅くに失礼します、グレイシア=フォン=オクシェ公女。
 俺の名は怪盗クロウ。貴女を誘拐しに参上しました」





 するすると、公女の両目を覆っていた布が解かれていく。
 なーんだ、あれ自分で簡単に外せるのかー、なんて感心してる場合じゃない。イヤだなぁ、隠されてるってことは暴いちゃいけないってことじゃんか。秘されたる公女の素顔を大公開、でも代償は安くない。俺、絶対イヤなこと言われちゃいますよ?

「……ね? 顔のつくりなどは、普通の方と同じでしょう?」

 さら、と髪が流れて、公女が顔を上げる。
 涼やかな目許、長い睫毛に縁取られた宝石じみた灰の瞳。思わず見惚れそうになるほどの、予想以上の美少女である。
 だが油断するなかれ、あの目はヒトとは異なるモノだ。光を映さない文字通りの硝子玉。彼女の瞳はもとより、この世のものを見るものではない・・・・・・・・・・・・・・・

「あら……もしかして警戒していますの? 別にこの目は、ひとを傷つけるようなモノじゃありませんわよ。
 ただ少し、変わったものが見られるだけですわ」
 すでに及び腰なのが伝わったのか、微妙に不服そうな表情を浮かべ公女は俺を見やる。どのみち俺の姿など映してはいないくせに、彼女は確かに俺に視て・・、悪戯っぽく笑った。

「……そう、やっぱり。
 長生きするタイプじゃないと思っていましたけど、本当に早死にするようですわね、あなた」


* * *

『黒い空』

* * *


 金属と金属の打ち合う音が、高らかに響き渡った。

「ッ────!!?」

 何が起こったのか、一番最後に理解したのは、不覚にも俺だったと思う。ジャッジの搭乗する機動兵器を両断すべく振り下ろした剣────それが、その直前で止まっている。
 それも、機動兵器の前に躍り出た一人の少女の剣に受け止められて……!!

『フェザーブレードが───受け止められた……!?』

 刀身の中から聴こえる、キィの驚愕の声。
 だがこの事態に驚いているのは俺たちだけだ。素早く体勢を立て直したジャッジは、意気揚揚と少女へ指示を出す。
「よーしっ! そのまま一気に畳み掛けろ『グレイミリオン』!」
「はいっ!」
 ジャッジの言葉に応え、フェザーブレードを受け止めていた大剣がぐるんと翻る。そのまま押し返され、俺の身体は野球ボールみたいに投げ飛ばされる……!


* * *

『黒い雲』

* * *


「──────え?」

 ……アカイ夢の終着点で、呆然と立ち尽くす。
 だって、……は、……なんだこれ、どういうこと? 俺はこんな薄汚れた路地なんて知らないし、ここまでどうやって来たのかも記憶にない。なのになんで俺はこんなとこにいて、こんなわけのわからない状況になってるのか。


 ……さて。

 それじゃあ今俺を囲んで倒れてる、傷だらけの皆さんはいったいどこの誰なんでしょう────?


* * *

『そして黒い風』

* * *


「そんなの、何かの間違いに決まってますッ!!」

 ガタン、と威勢良く座っていた椅子を蹴倒して、ロザリオが叫んだ。
 暗黒シティ中央地区武装警察本部ビル。その23階にある狭い一室には、彼女の他に何人かの警官や捜査員の姿がある。その中にはロザリオの上司であるリカルド=ジャッジや、探偵騎士クロラット、そしてREIDOLLグレイミリオンの姿もあった。
「ロザリー、落ち着いて」
「でも、クロ君……」
 ロザリオの隣に座っていたクロラットが、彼女に着席を促す。納得のいかない表情を浮かべつつも、しぶしぶと席につくロザリオ。
「クロ君、だけど……君のお兄さんのことなんだよ?」
「──────……」
 彼女の言葉にはあえて答えず、彼はサングラスの下の視線をジャッジの方へと向けた。腕組みをして黙り込んでいたジャッジは、その視線を受けて顔を上げる。
「ジャッジ警部。詳しい話を聞かせてもらえますか?」
 要望に、彼は軽く頷いてテーブルに置かれた資料を手に取った。何枚かの写真と共にクリップでまとめられた紙をぱらぱらとめくりながら、ジャッジは掻い摘んで書かれていることを読み上げる。
「今回の傷害事件があったのは昨夜、じゃなくて今日の午前2時過ぎだな。場所は西地区の外れにある廃工場。被害者は全部で14人か。死人は出てないが、うち一人はけっこうな怪我を負っている。
 どいつもこのあたりを溜まり場にしているチンピラくずれだ。裏付けはまだ取れてないが、四課の奴に聞いた話じゃカルミドーン・ファミリーの末端に属していたらしいな……
 使用された武器は鋭利な刃物、おそらくはナイフか短剣の類だ。────そして、現場に残っていた切断痕がウチの機動兵器をぶった切ったものと一致した。獲物はほぼ間違いなくクロバードの所持する闇夜の鍵ナイトブレード……そして被害者が証言している容疑者の特徴と一致する奴の名前も、クロバード=ルル=クロックカスだ」


* * *

『でも一時だけ差し込んだ灰色の光が』

* * *


「大丈夫だよクロウくん。────私が、きっとなんとかしてあげるから」


* * *

『夜空の下の二人を照らす』

* * *


「──────────キィ?」


* * *

『ああ やっぱり』

* * *


 本当に普通の少女だった。
 よく笑い、よく怒り、よく涙する。そんな、どこにでもいる平凡な娘。当たり前の世界でありふれた生活を送る、退屈で幸せな女の子。
 星が好きで、母が好きで、友達が好きで。ひょっとしたら淡く思いを寄せる、誰かだっていたかもしれない。

 けれどある日突然、今まで一度だって話したこともない父がやって来て。
 君は選ばれたのだと、そう言って彼女を見知らぬ場所へ連れて行った。

 それがどういう場所だったのか、どういう意味があったのか、その時の少女は最後まで聞かされなかった。
 父であった人は何も言わず、その場にいた他の二人の大人も何も教えてはくれず────少女の幸福な人としての日々は、そこで唐突に終わりを告げた。


* * *

『絶対的な別れを乗り越えて』

* * *


 ……刻限は、もう間際だ。
 すでに門は開かれた。降り注ぐ黄金の光の粒、天に到る其の扉の目前には。


「────やっぱり来たんだね、クロウくん」


 始まりと終わりを告げる鍵、俺を戒めるまぼろしの少女が立っていた。


* * *

『僕達はまた会うことができた』

* * *


「……約束、しただろ」
「え……」
 その言葉に、キィの瞳が揺れる。
 ……自分から言い出したことだったのに、覚えてないなんて薄情な話だ。もっとも俺が今口にした『約束』も、本当にあの時キィと交わしたものかどうかは自信はないのだが。頭で考える前よりに、滑り出た言葉だった。
 ……どっちだっていいさ。
 ただ俺には、守らなくちゃいけない誓いがあるだけだ。

「───さぁ、もう帰ろうキィ。君は、こんなところにいたらいけない」


* * *

『きっとまた会えると信じていた……』

* * *


 だから君も、信じて待っていて欲しい。俺が約束を守れるように。

 果たしてそんなものに効果があったかどうかは、もう、俺には確かめることは出来なかった。
 眩い光に視界が沈む。どうか。


────どうか、きみがわらえますように。











怪 盗 物 語
The dark of under the moon, person who brandishes the blade of a inocence feather.

2605年12月31日
???? 発見される
2606年1月1日
???? 再封印

2756年2月29日
クロックカス家に双子の兄弟が生まれる

2772年10月30日
ディアス=ルル=クロックカス処刑
2772年10月31日
クロバード=ルル=クロックカス、クロックカス家第17代当主となる

2775年9月28日
聖石『獅子の涙』強奪事件
2775年10月17日
アカヌ石強奪事件
2775年12月19日〜12月24日
オクシェ公女誘拐事件
2775年1月10日〜1月30日
市内各地にて連続傷害事件
2776年2月1日
クロバード=ルル=クロックカスを緊急指名手配

2776年3月31日
精霊キィの裏切りにより怪盗クロウ逮捕
2776年4月1日
クロバード=ルル=クロックカス処刑






【捏造用語辞典】
※ここで語られていることのほとんどはこの嘘予告を書くために管理人が勝手に設定したものです。決して真に受けたりせず、嘘予告を楽しむためのスパイス程度にご使用ください。

クロバード=ルル=クロックカス【人名】
本作での主人公。クロックカス家第17代当主であり、先代である父の死をきっかけに怪盗業を継ぐことになる。
当初は家業を嫌っておりやる気もなく成功率も低かったが、『獅子の涙』強奪事件を機に才能を発揮。稀代の天才として後に『魔王怪盗』と名を馳せるまでの成長を遂げる。
……が、その力が強大になりすぎてしまったためにキィの裏切りによって殺されてしまったとかなんとか……?
物語の視点は基本この人であるため、どこぞの誰かさんのように何を考えてるか分からないとか隠し事ありまくりとかそういうことはあんまりない。読み手が知らないことは彼も知らない。とは言えもちろん、何かしら出生の秘密とか色々あるらしいですがー。

キィ=ヒストウォーリー【人名】
クロバードのパートナー。150年前からクロックカス家の当主に仕えてきたお目付役の精霊で、見た目は12、3歳くらいの少女。
精霊魔法によるサポートでクロバードを助けたり、霊剣変幻で武器になったりもする。首にかかった真夜の鍵とかどう見ても星のハルバードのミニチュア版なウェポンとかが気になる感じ。
性格はノリが良くてマイペース。クロバードを振り回しつつも、常に彼の傍らで共にあった。怒ったり笑ったりと一見、感情表現豊かに見えるが……
本作のヒロインにして黒幕。始まりと終わりの鍵。

リカルド=ジャッジ【人名】
武装警察の熱血警部。典型的な現場叩き上げタイプ。クロバード逮捕に(はた迷惑な)情熱を燃やしており、そのためなら周囲を省みない困った人。あくまでも彼自らがクロバードを捕まえることが重要らしい。
それでも市長の方のジャッジに比べればはるかにマトモではあるのだが……
あれでけっこう面倒見がいい、とは部下であるロザリオの談。クロバード逮捕のために無茶をやりまくっているわりには、直属の部下たちの間では不思議と人望があったりする。

ロザリオ=シラバノ【人名】
クロックカス兄弟の幼なじみ。『探偵倶楽部』の方のヒロイン、と勝手に決めている。
明朗快活で裏表のない性格、嘘もつけないお人好し、と暗黒シティでは絶滅危惧種に指定されかねないほどのパーフェクト善人超人。無軌道で無責任な言動を嫌う正義の三つ編み眼鏡なのだ。ただし時々突拍子のない面白行動に出るバイオレンスなモンスターでもある。
例に漏れずメカオタで、武装警察の機動兵器を駆使しジャッジと共にクロバードを追い掛け回している。クロバードの更生を至上命題にしているらしい。

クロラット=ジオ=クロックカス【人名】
クロバードの双子の弟。たぶん『探偵倶楽部』の主人公。探偵騎士。
兄弟仲が悪いわけではないのだが、ジャッジ警部の要請を受けクロバード逮捕のために協力したりもする。怪盗VS探偵、因縁の兄弟対決……なのだが、あいにくライバルキャラはジャッジの方なので出番はそう多くない。
頭はいいけどそれ以外は全部ダメ。体力ない根性ないお金もない。いつも赤貧に喘いでいるので、ロザリオは頻繁に自宅を強襲してご飯を作ってあげたりしているらしい。
ちなみに、なぜかこっちでもしっかりサングラスをしている。顔は兄と同じなので、その差別化のためだろうか。

グレイミリオン【人名】
ロザリオが趣味と実益を兼ねて製作した対クロバード専用REIDOLL。言うまでもなくグレイナインのコンパチキャラ。原作には影も形もない完全なオリキャラだが、原型が原型だけにオクシェ公女よりよっぽど馴染んでる気がする。でも別に真の主人公だったりするわけではない。
純真で天真爛漫、礼儀正しく思ったことがそのまま表面に出るなど基本的なパーソナリティはグレイナインと同様。
機工聖剣ゴードベインなる大剣を主武装にしている。ご大層な名称のわりには用途が狭すぎてとんでもないなまくら。野菜も切れない。しかしグレイミリオンの怪力で叩き付けられるので、それでも充分な凶器になったり。

グレイシア=フォン=オクシェ【人名】
『オクシェ公女誘拐事件』においてクロバードに誘拐されたオクシェ家の次女。原作には「オクシェ公女」の名前のみ存在する、事実上のオリキャラ。公女という言葉からイメージしてみたらそのまんまエトさんか心みたいなキャラになってしまったので、あえて「中西っぽくない」キャラ付けにしてみたり。が、やっぱり浮いてた。
盲目なのではなく、彼女の目は生まれつき「ヒトとは異なるチャンネルに合っていた」もの。そのため両目をあらゆる外界と遮断する呪布で覆い、屋敷の尖塔で軟禁同然の生活を送っている。
とは言っても彼女の目は、攻撃的な性質のものではない。ただ視点が違うだけなのである。

クロックカス【家名】
怪盗名家。過去暗黒シティの歴史に残る大怪盗を輩出してきたという血筋で、その当主は代々怪盗を継がなければならないという掟がある。
名家だがその伝統上、住居は身分詐称が可能な貸し住まいに限られてしまったり。いちおう本家と言える屋敷は存在するらしい。盗んだはいいが換金しない品物などは、キィがそちらに保管しているのだとか。
実はそうとう古い家柄で、キィが仕えるようになる前から存在している。クロックカス家の悲願『黄金の夜』を求める過程で契約を結んだ、とはキィの談。

シラバノ【家名】
暗黒シティ二大企業の一つ……と言いたいところだが、こちらの世界ではすっかり没落してしまっている。今では平均よりやや裕福な家庭、くらいのもの。150年ほど前から急速に衰退して行ったらしい。
ある秘宝に関わる血筋だが、没落した今ではその存在すら伝わっていない。なおロザリオに特別な力などはありません。

アカヌ石【秘宝】
魔導名家ラーストーンに伝わる秘宝の一つ。怪物と鳥を足して2で割ったような形をした白金の石細工。単体ではただの骨董品なのだが、ある血筋の者が持つことにより特別な意味を持つ。
なんでも伝説の大秘宝の欠片だとかで、才能のある者が手にすれば黄金に輝き道を拓くとかなんとか……



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