your wants whole concept of the world.

+ ク ラ ウ ン 学 園 に よ う こ そ ! -you hoped from crown-


#03 新しい舞台


「────────は?」

 長いような短いような沈黙の後。
 ようやくぼくの口から漏れたのは、そんな間抜けな呟きだった。

「え、……と、あれ? ……今、なんて……?」
 確か、ぼくに王冠執行部の会長になってほしい───なんて聞こえたような気がしたけど。……いやいやいや、まさか。そんなことありえるわけないんだから、何かの聞き間違いに決まっている。
「おやぁ、聞こえませんでした? それならもう一回言い直しますが」
「あ、いえそのあの……! き、聞き間違いだと思うんですけど、もしかして執行部の会長をやってほしいとか───い、言ってない、……ですよね?」
「いいえ? 間違いなく、そう申し上げましたが」
「はい!?」
 トンデモナイ話をにこやかに肯定する天空院さんに、ぎょっとして他二人の顔を見る。……が、大零寺先輩はさも当然とばかりに無言で頷き、黒ノ葛先輩に至っては「ちゃんと聞こえてんじゃないですか」などと呆れ顔を浮かべている始末。

────つまり。
 彼らは本気で、ぼくに執行部会長をやれ、と言っているのだろうか?

「────な、……何を考えてるんですかあなた方は!
 そんなこと出来るわけがないでしょう……!!」
「何故そう断言する? 根拠があるならば聞かせ願おう」
「こ、根拠って……あ、あなた方こそどんな根拠があって、ぼくを会長になんて言ってるんですか!? ぼくはただのクラス委員長で、それ以上でもそれ以下でもないんですよ!?」
 そうだ……きっと彼らは、他の誰かと勘違いをしているんだ。そうでなければそんなこと、ありえるわけがない……!
 だって王冠執行部と言えば、全校生徒の憧れの的。生徒自治の代表者なのだ。彼らのように能力にも人望にも恵まれた人であればともかく、成績も普通で知名度も無い、ぼくみたいな単なる学生が会長を務めていいような組織ではない。
 そう当たり前のことを必死に訴えるぼくを、しかし三人はきょとんとして見つめる。それこそぼくの方が、何か勘違いをしているかのように。
「……突然のお話に驚かれるのも無理はありません。
 ですが何一つ、間違いなどないのです。あなたは選ばれるべくして、私たちの会長に選ばれたのですから」
「我らはもとより他の執行部役員も、この件は了承している。顧問である剣城教頭の許可も得た。後は貴殿の意思一つということだ」
「ま、これも運命だと思って受け入れて下さいよ『会長』。何も悪い話ってわけじゃないでしょう?」
 ……開いた口が塞がらない。
 納得できる説明は一つも無く、だと言うのにまるで当たり前のようにぼくを受け入れている三人の態度。……いくらなんでも出来すぎている。とてもじゃないけどこんな話、ハイそうですかなんて頷けるはずがないっ……
「で、でも……ぼくにそんな大役が務まるなんてとても……!
 それに、バイトのことだってありますし……」
「バイト……ですか?」
「そ、そうです! 家が貧乏なので、働かないと生活できないんです……!」
 我ながら情けない逃げ口上ではあるが、この際なりふり構ってなんかいられない。それに言っていることは事実なのだ。何とかしてこのありえない話を取り消さなければ……!
「だから、とても生徒会長なんてやっている暇はないんです!」
 ばたばたと腕を振るぼくに、天空院さんは「はぁ…」と微妙な表情で頷いた後。
「そういうことでしたら、寮の方へ入って頂くということでどうでしょう?」
 と、あっさりとぼくの逃げ道を塞いだのだった。
「……へ?」
「ですから、学生寮です。ご存知ありませんか?」
 ……いや、もちろん知っているけれども。
 この学園の敷地内に建つ、どこかのお屋敷と見間違えそうなほどむやみに豪華で立派な建物のことは。
 あの、一部の上流階級出身生徒や特待生にしか入寮を許されないというクラウン学園の学生寮に、……ぼくが、入る……?
「あ、あの……入るっていうのは、つまり……?」
「? もちろん、そちらに住んで頂くということになりますが。執行部の人間でしたら基本的な生活費は奨学金として支給されますし、内装なども一通り揃っていますので不自由はないかと思いますけれど……」
「ま、3LDK程度ですからちょいと手狭ですけどねぇ」
「我々も寮に部屋を借りている。連絡の便を考慮しても入寮を奨めよう」
 呆然とするぼくに代わる代わる三人は言ってくる。
 ……だけど、そもそも……ぼくが家の話をしたのは、生徒会長の話を辞退するためだったわけで……それがどうして、会長になることを前提の話になっているのだろう……!?
「っ……で、でも……!」
 どう考えたって、おかしい。
 特に勉強が出来るわけでも得意なことがあるわけでもないぼくに、そんなうまい話あるわけが────
「いやぁ。そう深刻に考えることもないと思いますけどねぇ」
「ッ……!?」
 まるでぼくの思考を読んでいたかのようなタイミングで、黒ノ葛先輩が言った。
「そりゃあ生徒会長ともなれば、自由気ままに学園生活をエンジョイってワケには行きませんけどねぇ。別に四六時中拘束されるってわけでもなし、行事のない時期なんかはけっこう優雅なモンですよ?
 単位だって優遇してもらえますし、奨学金で生活費はかからない。わざわざ貴重な青春の一時を、バイトなんかに費やすこともないわけです。
 しかも王冠執行部の会長と言えば、そこらの教師よりよほど強い発言力を持っている。あなたがその気になればこの学園を好きに変えることだって出来るわけですよ。メリットとデメリット、どっちが大きいかなんて考えるまでもないでしょう?」
 ……それは、そうなん、だけど。
 どこか愉しんでいるような彼の口振りに、胸のつかえが取れない。
「だけど……ぼくなんかがいきなり会長なんて、他の生徒が認めないでしょうし……そんな重要な仕事が出来るわけが……」
「いいえ、そんなことはありません」
 天空院さんが、ぼくの言葉をきっぱりと否定する。その口調は優しげなものだったけれど、同時に反論を許さない響きを含んでいた。
「私たちは何も、出来ないことを無理にさせようとしているわけではありません。
 あなたなら出来ると───いえ、あなたにしか出来ないと判断したからこそ、こうしてお願いしているのです。あなただけが、私たちの会長に相応しいのですから」
 ……ぼくにしか、出来ない……?
「無論、承諾が得られるのならば我々も全力で貴殿の手となり足となろう。貴殿に仇なすあらゆる障害を排除し、この学園で貴殿の理想を実現するための如何なる協力も惜しまない。
 迷っている暇はないぞ会長よ。我らには貴殿の力が必要だ」
 ……力が、必要……
「……ま、どうしても嫌だって言うなら仕方ありませんけどねぇ。
 ただ我々三人の唯一の共通意見は、あなた以外に会長はありえない、ってことだけです。逆説的に、他全てにおいて異なる意見を持ってるってことになる。
 執行部がこれじゃあ色々マズイってことは、言うまでもなくおわかりになるかと思いますが」
 ……ッ……!
「狂ノ助、あなたは……!」
 鋭い声音で天空院さんが咎めるが、黒ノ葛先輩は気にしたふうもない。……それに彼女も、言葉の内容までは否定しなかった。
 ……めちゃくちゃな話だ。
 つまりはぼくに、選択の余地なんてないってことなのか……?
「……………………」
「会長……」



1.生徒会長になる
2.生徒会長にならない
3.……すぐには決められない










Crown*School Days Episode#03 Continued.

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